THE RADIANT BOY
MRS. CROW
光り輝く童
[クロウ夫人による]
スチュアート大佐、つまりのちのカースルレイ卿は、若い頃アイルランドにいたことがあります。猟が好きでしたが、ある日獲物を深追いしすぎて道に迷ってしまいました。天気もひどく荒れてきたので、困り果てた大佐はある紳士の屋敷の玄関に立ちました。そうして名刺を出して取り次いでもらい、一夜の宿を求めたのです。
アイルランド郷士*のもてなし精神はよく知られていますが、その屋敷の主も大佐を暖かく受け入れました。主はこう言いました。大したおもてなしが出来なくて残念です、なにしろ客人がいっぱいでして、しかも今夜のこの荒れ模様に追われてこられた方々がすでに幾人かありましてね。それでも出来る限りのご用意をして、心からあなたをお迎えしますよ。
そうして主は執事を呼んで、どこかにこの人をお泊めするよう、出来る限りのことをするように言いつけて、世話を任せることにしました。奥方はいませんでした。その紳士は男やもめだったのです。
スチュアート大佐はその屋敷が人で一杯なことを知りましたが、とても愉快な人々でした。主人は大佐に滞在を勧めて、もう数日滞在を延ばせば素晴らしい猟ができますよと約束しました。ようするに、大佐はこんな楽しいところに泊まれることをとびきりの幸運に思ったのでした。
やがて愉快な夕べがおひらきとなって、みんな寝床へ引き上げました。執事は大佐を大きな部屋に案内しました。家具は取り払ってありましたが、炉格子には泥炭が燃えて、床には衣類やその他で間に合わせた仮の寝床がしつらえてありました。
それでも、スチュアート大佐は猟で大変な一日を過ごして手足も疲れておりましたから、その寝床は魅惑的でした。けれど横になる前に、火を少し小さくしておいた方がよかろうと考えました。炎が煙突に向かって恐いほど燃えさかっていたからです。こうしておいて、大佐は寝床に横になり、すぐに寝入ってしまいました。
二、三時間眠ったかと思われる頃、大佐は不意に目が覚めて、火事かと思うほど部屋が明るいのに驚きました。けれど暖炉を振り返ってみると火は消えており、どうもその光は煙突から出ているようなのです。
大佐は、その正体を知ろうと寝床で体を起こしました。そして、美しい裸の少年がいることに気づきました。目も眩むほどの光に包まれています。少年は大佐のほうをじっと見ましたが、やがて姿が薄れ、暗闇に戻りました。
スチュアート大佐は、自分の見たものが霊的な存在だと思うどころか、きっと主人か客たちが自分を驚かそうとしたに違いないと考えました。ですから、そんな無礼に腹がたち、翌日朝食の場に現れると素っ気ない態度をとって、すぐに出発する意向を伝えることで、不快さを示して見せました。
屋敷の主人は、滞在して猟に出かけると約束されたではありませんか、と引き留めました。けれどもスチュアート大佐が冷たく「失礼します」とだけ答えるので、ついには主人も何か間違いがあったのだと気づきました。それで大佐を脇へ連れて行って、訳を話して欲しいと強く求めました。
そこでスチュアート大佐は、細かなことには触れずに、新来者にとって許されざる悪戯を仕掛けられたのだと述べました。
軽はずみな若い者が大勢いる中ではあり得ないことではないと思ったので、紳士は謝罪するように皆に呼びかけました。けれども全員が、名誉にかけてその非難には当たらないと言うのでした。
その時、屋敷の主には何か閃いたようでした。手を額に当ててひと言声をあげると、ベルを鳴らしました。
「ハミルトン、」主人は執事に尋ねました。「昨夜スチュアート大佐はどこで休まれたのかね?」
「はい、旦那様、」執事は答えました。「どの部屋も一杯でしたから――皆様部屋ごとに3人か4人、床でお休みになるほどで――それで、その方は『童の間』に。ですが、あれが出てこないように火を盛大に起こしておきました。」
「とんでもない間違いをしたものだ、」主人は言いました。「あの部屋に人を入れることは、きつく禁じてあったではないか。だから、使えないように家具を取り払ってあったのに。」
それからスチュアート大佐と朝食にもどりながら、たいそう深刻な様子で、大佐が見たものが何であるかを話して聞かせました。そうして、さらに詳しく聞きたいとせがまれて、ついにすっかり明らかにしたのです。
この家には言い伝えがありまして、『光り輝く童』を見た者は必ず権力の頂点を極めますが、最盛期に達すると非業の死を遂げるといわれるのです。まったく、それが現れたという記録が残っておりまして、その話が本当なのは確かなのです。主人はそう付け加えました。
* 郷士 (country gentry)
イギリスの地主階級。貴族と庶民の間に位置する。ジェントリーと呼ばれ、この人たちの理想像が『ジェントルマン』であった。
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