作品紹介入り口にもどる

Wee Willie Winkie, Under the Deodars,
the Phantom 'Rickshaw,
and Other Stories (1895)


ASTI-TOP][GANESA入り口][Kipling 年譜作品紹介掲示板]



INDEX

ストーリー紹介の本文はそれぞれもとの短編集ごとに載せてあります。
タイトルにつけた
(西暦)は初出年を表します。

WEE WILLIE WINKIE

Wee Willie Winkie
Baa, Baa, Black Sheep
His Majesty the King
The Drums of the Fore and Aft

UNDER THE DEODARS

The Education of Otis Yeere
At the Pit's Mouth
A Wayside Comedy
The Hill of Illusion
A Second-Rate Woman
Only a Subaltern

THE PHANTOM 'RICKSHAW

The Phantom 'Rickshaw
My Own True Ghost Story
The Strange Ride of Morrowbie Jukes
The Man Who Would Be King
(In alphabetically order)

At the Pit's Mouth
Baa, Baa, Black Sheep
Drums of the Fore and Aft, The
Education of Otis Yeere, The
Hill of Illusion, The
His Majesty the King
Man Who Would Be King, The
My Own True Ghost Story
Only a Subaltern
Phantom 'Rickshaw, The
Second-Rate Woman, A
Strange Ride of Morrowbie Jukes, The
Wayside Comedy, A
Wee Willie Winkie






WEE WILLIE WINKIE

Baa, Baa, Black Sheep (1888)


Kiplingの子供時代の体験を元にした作品。

Punch(5才)とJudy(3才)の兄妹は、インドで生まれ育った。イギリスで教育を受けるため、彼らは Southampton の Rocklington にある下宿に預けられる。下宿は'Downe Lodge'といい、Uncle Harry と Aunty Rosa、彼らの息子 Harry(12才)がホストファミリーだった。Uncle Harryは海軍の傷痍年金を受けている。

Punch と Judy は、インドでの生活とは全く違う環境に戸惑う。Judy が Aunty Rosa に気に入られたのに対して、Punch は不幸だった。Uncle Harry は Punch をかばってくれたものの、息子の Harry は彼をいじめ、Aunty Rosa は何かにつけて Punch の行いを悪く解釈し懲罰を加える。彼の楽しみは本を読むことだけだったが、読んだ物語を Judy に聞かせることさえも禁じられた。Punch は「Black Sheep」と呼ばれて除け者にされる。

Uncle Harryが死んでから Punch は Harry と同じ学校にやられるが、そこでも Harry の差し金でいじめられることになる。Punch は Harry に殺意を抱くようにさえなる。

Punch が10才になった頃、両親の知人が子供たちの様子を見るためにやってきた。その人物は Punch の視力が極度に落ちていることに気づき、母親をインドから呼び寄せた。3週間後に到着した母親は、Punch の置かれた状況に気づいた。撫でようと手を差し出したら、彼がそれを避けるように腕を上げたからだった。

母親は子供たちを引き取り、Punch は平和を取り戻した。


______________

Aunty Rosa と Punch は、Dickens の David Copperfield における主人公と義父それにその姉を思い出させる。Aunty Rosa の場合は自分の息子かわいさから Punch につらく当たるのだが、その厳罰主義を宗教で正当化しており、しかもゆがんでいる点は同じである。

もちろん、よく言われるように、Punch の側にも嫌われる何かがあったはず。しかしともかく、Kipling は Punch にこう言って締めくくる。

. . . when young lips have drunk deep of the bitter waters of Hates, suspicionthat knowledge, and Despair, all the Love in the world will not wholly take away ;

INDEX

The Drums of the Fore and Aft (1889)


ある連隊が「Fore and Aft」とあだ名をつけられることになった不名誉な戦いの顛末。

この連隊には経験豊かな古参兵が存在せず、また、実戦を体験したことのある士官も下士官もいなかった。兵たちは人口過剰な工業地域から集められた徴募兵であり、インドの陸軍で食べさせてもらっているようなものだった。

ある時、この連隊に前線へ向かうよう命令が下った。戦闘というものを知らない兵たちは漠然とした期待で興奮した。

ところで、この連隊の軍楽隊に二人の少年がいた。彼らは14才で、手に負えない乱暴者であったが、将校に出世しようと野望を持っていた。彼らは前線に連れて行ってくれるよう、連隊長に直訴してかなえられる。

経験者のいない連隊は、前線に着くまでに消耗し、
INDEX






UNDER THE DEODARS

The Education of Otis Yeere (1888)


Mrs Hauksbee の失敗談。

Mrs Hauksbee は、親友 Mrs Mallowe に、退屈しのぎにサロンを開きたいと言うが、インドでサロンが成立するわけがないと論破される。しかし、Mrs Hauksbee は Simla での生活が空虚に感じられ、何かしないではいられない。

そこで、Mrs Mallowe は彼女にとっておきの「お楽しみ」を教える。それは、ほどほどの年齢の独身男性を自分の影響下に置いてプラトニックな関係を保ち、その男性が一人前になるよう教え導き、出世するよう取りはからうことだった。

さっそく Mrs Hauksbee は休暇に来ていた Otis Yeere という若い男性をつかまえた。彼はベンガル地方の冴えない事務官僚で、政府に使い捨てにされるその他大勢のひとりだった。

Mrs Hauksbee は彼の服装やマナーに気をつけさせ、自信(うぬぼれ)と野心を持つことを教えた。また、彼が地方ですぐれた業績をあげているという噂をシムラじゅうに流した。このままいけばゲームは成功と思われた。

ところが、失敗だった。Mrs Hauksbee が次の夏は ダージリンで過ごすことにしていると聞くと、後ろ盾を失うことになる Otis Yeere は、急にやる気をなくした。しかも、彼女に恋愛感情をいだいていて、キスを迫ろうとして Mrs Hauksbee にきつく拒絶される。

Mrs Hauksbee は猛烈に腹を立てる。しかし、Mrs Mallowe に言わせれば、彼は彼女の虚栄心を傷つけたが、彼女は彼の心に大きな傷を負わせたのだった。

______________

途中はコミカルだが、後味の悪い結末。


INDEX

At the Pit's Mouth (1888)


Simla での不倫の顛末。

ある男が、人妻と密会を重ねていた。その夫は仕事で平地に残っていたので、彼女はしたい放題の生活を送っていたのだ。

人目を避けるため、女の思いつきで彼らは墓地で逢った。ちょうどそこではクーリーたちが墓掘りをしている最中だった。男はその墓穴を見て寒気と妙な気分に襲われる。

翌日、墓地で待ち合わせて遠乗りに出かけることになった。夜の雨で墓穴には深さ30センチほど水がたまっていた。穴の縁に立ってそれを見た男は、そこに埋められるのは嫌だと言う。

二人は細い崖際の道を馬で進んだ。ところが雨で路肩がゆるんでおり、男は馬ごと谷に転落し、死んでしまう。正気を失った女は通行人に助けられた。

男は例の墓穴に埋められた。雨が続いて、穴にたまった水は45センチほどになっていた。

______________

気味悪いが、それ以上どうとも言えないストーリー。禁じられた恋愛、水、死という同じ要素を含みながら、In Black and White の 'In Flood Time' の迫力とはずいぶん違いがある。

INDEX

A Wayside Comedy (1888)


インドの僻地に、3人のイギリス人が住んでいた。Boulte夫人は夫を嫌悪していた。彼女は夫の出張中に、独身の Kurrell大尉と不倫を楽しんだ。しかし帰ってきた夫はそれに気づかず、その後も3人は仲良く『イギリス人社会』を維持していた。

そこへ Vansuythen少佐夫妻がやってきて、イギリス人は5人となった。Boulte夫人は、Vansuythen夫人が自分から Kurrell大尉を奪ったと思い込む。思い悩む彼女は、ふとしたことから、大嫌いな夫にKurrell大尉との不倫関係を話してしまう。

一方、Boulte夫人に飽きた Kurrell大尉は、Vansuythen夫人を口説こうとしていた。Vansuythen夫人はこれを拒絶。さらに Boulte夫人との一件が明らかになると、彼女は二度と口をききたくないほど彼を嫌う。

こうした話を知らなかった Vansuythen少佐も、やがて夫人から事情を知らされたようだ。

以上の結果、彼らの関係はどうなったかというと、何も変わらなかった。Vansuythen少佐 が言うように、「小さなコミュニティーでは、みんなが仲良くしなくてはならない」からだ。

______________

当時としてはかなり大胆に不倫が取り上げられている。しかし、不倫そのものよりも、互いに軽蔑し嫌悪する人間が集まってうわべだけ和やかに取り繕っている状態のほうが、問題だと思う。


INDEX

The Hill of Illusion (1887)


Jakko に向かい寒い夜道を行く1組の男女のセリフだけで進行する。

女は夫を捨て、男は仕事を捨てての逃避行。Simla を出て Bombey に向かい、そこから船でヨーロッパへ行くことになっている。しかし、身内のことや、自分たちがこの先どうなるかを考えると、女は不安でたまらない。

女の知り合いである Captain Congleton が通りかかる。男は Congleton と女の関係を疑う。それを聞いた女は、男が信じられなくなる。女は、最初は世間体や自分たちが捨てるものを気にして不安だったのだが、男とこの先やっていけるかどうか不安になった。男は相手が自分の思うとおりでないと気がすまない性格であることに、女は気づいたのだ。

相手が信じられなくなった女は自信をなくし、駆け落ちは中止となる。別れてから、男は、彼女の背後に別の男がいるかも、とつぶやく。

______________

これは誰が見ても、やめておいてよかったケース。

INDEX

Only a Subaltern (1888)


Bobby Wickは王立陸軍学校を卒業すると、少尉としてインドに赴任することになった。インドで30年過ごしコミッショナーを務めた父親は、何よりも連隊を大切にするようにと教えて、世間知らずの息子を送り出した。

BobbyはTail-Twistersと呼ばれる連隊に配属された。彼の中隊の大尉は、部下のマネージメントを彼に教えた。それができて一人前である、と。手始めにBobbyは一人の兵を釣りに連れ出し、ふさぎ込みから快復させた。

やがて夏が来て、連隊にコレラが発生する。Simlaでの休暇を切り上げて、Bobbyは他の将校とともに連隊に戻った。彼は手紙のやり取りをし、病気の者を励まし、病院での人気は牧師よりも高くなった。

彼が釣りにさそった兵が、重体となった。会いたいとの知らせを受け、Bobbyは一晩中瀕死の患者の手をにぎってやる。奇跡的にその兵は死を免れた。

しかしついにBobby自身がコレラにかかり、3日間の闘病後、あっけなく死んでしまう。彼を慕う兵は彼を「Bloomin' Hangel」(てえした天使)と呼んだ。
______________

ジェントルマンの生まれ、人間味あふれて純粋、ひたむきな若者。あまりにクサイというので、後の評価は高くなかったようだ。しかし、今読めば、何か懐かしい格好良さがある。

INDEX






THE PHANTOM 'RICKSHAW

The Phantom 'Rickshaw (1885)


『私』が本人から手に入れた、Theobald Jack Pansay の手記。3年前、彼は不審な死に方をしていた。医師はストレスによるものだと断言するのだが。


休暇が終わり本国からインドに戻る旅で、Pansay は Agnes Keith-Wessington という人妻と不倫の関係になる。しかしその年の8月には、彼は Wessington 夫人に嫌気がさし、Simla で本人に直接告げた。ところが、「ちょっとした間違いだわ、またいいお友達になりましょう」と、彼女はあきらめなかった。

1883年、彼はまた Simla で彼女と会った。彼女は前と同じ言葉を繰り返した。

1884年8月、Simla で、Pansay は Kitty Mannering と婚約した。Wessington夫人はそのことを知っても、「ちょとした間違いだわ、また前のようにいいお友達に戻りましょう」と言うのだった。彼女は、白黒の仕着せを着た4人の車夫が牽く人力車に乗って、頭を垂れ、ハンカチを握りしめていた。それが彼が見た最後の姿で、1週間後に彼女は死んだ。

1885年4月、結婚式を6月に控えて、Pansay は Kitty とともに婚約指輪を買いに行った。店から出ると、Wessington夫人の使っていた人力車がやって来た。Kitty には見えないが、人力車が彼女の乗った馬を通り抜けるのが、Pansay には見えた。最後に見たのと同じ様子で、Wessington夫人が乗っていた。

その後も幻の人力車は彼の前に現れ、夫人の例のセリフが聞こえるのだった。医師 Heatherlegh は、ストレスによる不調が原因だとして、彼を自宅に入院させる。

4月30日、体力と気力を取り戻した Pansay は、Kitty と馬で出かけるが、また幻の人力車が現れた。しかも、動転した彼は、夫人とのかつての関係を Kitty に話してしまう。彼女はムチで彼の顔を打ち、立ち去った。婚約は解消された。

Wessington夫人の乗った人力車は、彼につきまとう。やがて彼は「現実の世界が幻で、自分と人力車だけが現実の存在のよう」に感じるようになり、幽霊と親しく言葉を交わすまでになった。

8月、彼は幽霊に苦しめられることを、Wessington夫人を『殺した』罪に対する罰と受け入れ、やがて来るべき最期の時を静かに待っている。

______________

4人の人力車夫は夫人の死後すぐにコレラで死んでいるから、Pansay は5人分の幽霊に取り憑かれたことになる。

オーソドックスな怪談。日本語題をつけるとしたら、「冥土の俥(めいどのくるま)」が似合うと思う。

INDEX

My Own True Ghost Story (1888)


インドには幽霊が多い。幽霊はイギリス人のいる街ごとに存在するが、とくに街道沿いの宿場宿にはつきものだ。

私はかつて宿場宿を泊まり歩いたが、幽霊に出会った経験はなかった。こうした宿はたいてい古くて泊まり客もまれだった。そのなかでも Katmal の宿は最悪だった。この宿で、私はついに幽霊を見つけたのである。

部屋は私の部屋以外に3つあって、薄い間仕切り壁で仕切られていた。激しい雨と風の中、うとうとしかけたころ、外で輿担ぎ屋の声がした。シャッターを叩く音がする。隣の部屋のドアは音を立てて開き、誰か入ったらしい。しかし、その後何の物音もしない。闇の中には担ぎ屋たちの気配もない。

ベッドに戻って寝ようとしたら、隣の部屋からビリヤードの音が聞こえてきた。部屋は狭くて、ビリヤード台を置くことなどできない。速いペースで続くゲームの音を、私は背筋が凍る思いで聞いていた。

翌朝聞いた管理人の話によると、その建物はもとは鉄道工事の技師たちの宿舎で、ビリヤードルームを間仕切って客室に当てていた。そこで昔、太った技師がビリヤードをしているときに突然死したという。

私は隣の部屋に行ってみた。明るいのに、ビリヤードの音がした。ネズミがシーリングクロスの裏側を走り回る音と、こわれてゆるんだ窓枠が風でがたついて閂にあたり、破片の落ちる音が、そっくりに聞こえるのだった。

担ぎ屋たちが消えたのも幽霊だったからではなく、ただ管理人に追い払われただけだった。管理人に詳しく話を聞くと、技師が死んだ土地も状況も、話をするたびにコロコロ変わるのだった。

適当なところでやめておけば、幽霊体験から何か書けただろうに。

______________

幽霊の正体見たり枯れ尾花。
インド人の幽霊はイギリス人を怖がらせることはないが、イギリス人の幽霊はインド人にもイギリス人にも恐怖を与える。生きている人間の関係そのままで、おもしろい。

INDEX

The Strange Ride of Morrowbie Jukes (1885)


Morrowbie Jukes は熱のせいか、夜、馬でキャンプを飛び出した。めちゃくちゃに馬を走らせているうちに、砂の急斜面を35フィートほど馬ごと落ちた。そこは、急斜面で周囲を馬蹄形に囲まれ、一方が川にむいて開けた狭い空き地だった。斜面を登ることは不可能、川を渡ろうとしても、対岸近くからライフルで狙い打ちされる。

65人の住人の中には、Jukes のかつての顔見知りがいた。電報支局長をしていた、バラモン階層の Gunga Dass という男だ。彼の説明によると、そこは『死人の村』で、いったん死んだと見なされてガートに運ばれたものの生き返った者はここに強制的に入れられ、一生出ることができない。

Gunga Dass は川岸でカラスを捕らえ、それを食料としていた。Jukes から有り金を取り上げ、その金額に応じて食べ物の世話をしてやろうと言う。Jukes はカラスを食べ、その夜は斜面に掘られた身体一つ分の横穴に入って眠った。

翌日、Jukes は川岸の草地より先は流砂になっていることを知る。しかし、ライフルを持った見張りがいるのは、逃げ道があるということだ。彼は Gunga Dass から、以前白人がここに落ち込み、逃げようとして対岸から撃たれたことを聞き出した。

彼はその白人の遺体とわずかな持ち物を調べ、流砂に沈めて葬った。しかし、その時、犠牲者は背中をすぐそばから撃たれたことがわかった。手帳に隠してあった紙切れには、意味不明のことが記されていた。

じつは、その白人が自分だけ逃げるのではないかと疑い、Gunga Dass が殺したのだった。紙切れには、銃身の長さを単位として距離と方向が記されていた。

その夜、Jukes は Gunga Dass とともに逃げようとするが、Gunga Dass に後頭部を銃身で強打されて気絶する。気がつくと、召使いが斜面の上から自分をそっと呼んでいた。馬の足跡をたどって来て、Jukes の身に起こったことを知った。他の者は『死者の村』に落ちた者に関わることを拒んだので、紐をロープ代わりにして一人で助けに来たのだった。

______________

『死者の村』というシステム。それを百年も維持してきた社会。そこに入れられた人間の変化。これらのうち、どれがいちばん恐ろしいだろう。

INDEX

The Man Who Would Be King (1888)


金儲けのチャンスを求めてインドじゅうを渡り歩く2人の無頼の輩が、アフガニスタンの奥地に入って王になることを真剣に計画していた。新聞記者である『私』は、アフガニスタンに入り込んで無事にいられるはずがないと警告しつつも、事務所で地図や文献を見せてやる。

彼らは翌日、頭のおかしい『旅の僧』と従者に変装し、アフガン人に売りつける玩具の下に銃を20丁隠して、ラクダで出発した。そうして、イギリス人だとばれずに、無事に国境を越えたらしい。

1年後、彼らのうち1人が、ボロ切れのようになり精神に異常をきたして、戻ってきた。『私』は彼を事務所に入れて酒を飲ませた。彼は自分たちに何が起こったのかを語る。

彼らは山奥の吊り橋から落ちてある谷に入った。そこで村どうしの弓矢での戦いを銃を使って終わらせ、2つの村を支配するようになった。住民は未開だが金髪の白人だった。人々は、突如として現れ、自分たちにない力を持った彼らを神だと思った。彼らは村人20人を選んで訓練し、『軍隊』を組織すると、他の村も次々に支配下に置いていった。

その地方は金や琥珀やガーネットを大量に産出した。彼らは金で冠を作った。また、村人たちの間にあったフリーメーソンそっくりの制度を利用してロッジを開き、支配体制を固めた。4人の神官を集めて民の訴えを聞き、村の長4人を諮問機関とした。

こうして彼らは『王』となり、すべてはうまくいっていた。ところが、冬が来て、王の1人は妻を欲しがった。彼ら2人の契約では、完全に目的を成就するまで女に近づかないことになっていた。しかし、彼は相棒の説得に耳を貸さず、村長たちの反対にもかまわず、『王妃』として村の娘を連れてこさせた。

結婚の儀式の途中、その娘は彼に噛みついた。傷から流れた血を見ると、人々は彼が神でも悪魔でもなく人間だということを知り、反乱を起こす。反乱はどの村にも広がり、彼ら2人と身方をした1人の長は、自分たちが育てた軍隊によって捕らえられる。

長は首を切られ、王の1人は谷底に落とされ、もう1人は森の木に手足を打ち付けられた。しかし、一晩たっても彼は死ななかったので磔から下ろされ、相棒の生首を持たされて村から追い出された。

こうした話を語り、男は事務所を出ていった。その午後、炎天下で日にさらされているのを『私』は見つけ、施設に運ぶ。しかし、彼は翌日死んだ。

______________

全体に漂う狂気に似た不気味さ。妄想が現実となっていく過程は、うまくいっている時でも悪夢のようだ。そうして、本当の悪夢がやって来る。

INDEX

準備中

INDEX

 




ASTI-TOP][GANESA入り口][Kipling 年譜作品紹介掲示板]