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Plain Tales from the Hills (1888)

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INDEX

ストーリー紹介の本文は Oxford World's Classics の目次順に並んでいます。
タイトルにつけた
(西暦)は初出年を、
[数字]は Civil & Military Gazette の'Plain Tales' シリーズでの番号を表します。
西暦だけの表示は、'Plain Tales' シリーズ以外の作品、
西暦も番号もないものは、Plain Tales 出版時 (1888) に初めて登場した作品です。

Arrest of Lieutenant Golightly, The
Bank Fraud, A
Beyond the Pale
Bisara of Pooree, The
Broken-Link Handicap, The
Bronckhorst Divorce-Case, The
By Word of Mouth
Consequences
Conversion of Aurelian McGoggin, The
Cupid's Arrows
Daughter of the Regiment, The
False Dawn
Friend's Friend, A
Gate of the Hundred Sorrows, The
Germ-Destroyer, A
His Chance in Life
His Wedded Wife
In Error
In the House of Suddhoo
In the Pride of his Youth
Kidnapped
Lispeth
Madness of Private Ortheris, The
Miss Youghal's Sais
On the Strength of a Likenss
Other Man, The
Pig
Rescue of Pluffles, The
Rout of the White Hussars, The
Story of Muhammad Din, The
Taking of Lungtungpen, The
Three and -- an Extra
Three Musketeers, The
Thrown Away
To be Filed for Reference
Tods' Amendment
Venus Annodomini
Watches of the Night
Wressley of the Foreign Office
'Yoked with an Unbeliever'

以上初版の40編
Bitters Neat
Haunted Subalterns  (全集の Plain Tales に追加された2編)



Lispeth (1886) [08]

Lispeth は山岳民族の美しい娘で、幼児洗礼を受けていた。両親の死後、伝道所で牧師の妻の召使い兼話し相手として暮らしている。

ある日彼女は、重傷を負った若いイギリス人旅行者を伝道所に運び込む。男の傷は手当ての甲斐あって快復するが、その間に彼女は彼を本気で愛するようになる。男は本国に婚約者がいるにもかかわらず、彼女に思わせぶりな態度を取り、そのため彼女は彼と結婚できるものと思い込む。

やがて男は本国に帰ることになるが、別れに際して面倒を避けたい牧師の妻は、「必ず戻ってきて彼女と結婚する」と嘘の約束をするように言う。Lispeth は、男のその言葉を信じて待ち続ける。

真実を知ると、Lispeth は伝道所での文明生活を捨てて、自分の民族の生活に戻ってしまう。

――Plain Tales 巻頭に収録された作品。Lispeth は、のちに姿を変えて Kim に登場する。

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Three and--an Extra (1886) [04]

Mrs. Bremmil は、子供が死んで以来、家に引きこもって泣き暮らしていた。そうしているうちに夫は Mrs. Hauksbee と浮気を始めてしまう。

それを知り、「死んだ子供よりも生きている夫」だと気づいた Mrs. Bremmil は泣くことをやめ、対策を考える。

Mrs. Bremmil は、夫が Mrs Hauksbee と会うことになっているダンスパーティーに、できる限り美しく装って、わざと遅れて現れて注目を集めた。彼女は自分の若さと美しさを夫に見せつけて、その心を奪い返すことに成功する。

取り残された Mrs. Hauksbee は、そこにいた『私』をダンス後の食事に誘う。

――ホームコメディ。Mrs. Hauksbee は社交界の有名人である。

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Thrown Away

イギリス本国で過保護に育てられた若者が准大尉としてインドにやってくる。世間知らずのため、新しい生活の新しい楽しみに夢中になり、賭け事でお金を失ってしまう。よくありそうなことであるのに、彼はその損失を必要以上に深刻に受け止め、思いつめて連隊から姿を消す。

ある少佐は彼が「大きな獲物を撃つ」と言って狩りに出たと聞き、その行動に疑問を持ち、『私』と共に捜索に乗り出す。彼らは運河工事技師の宿舎で、ベッドに横たわる若者の遺体を発見する。ピストル自殺を遂げていたのだ。

二人は、彼がそこで書いた遺書、ベッドや布団を消却して灰を運河に捨て、自殺の証拠を消す。そして、青年がそこでコレラで死んだことにし、辻褄の合う話を考えると、遺体を埋めて連隊に戻る(遺体から自殺と知られないように)。

――箱入りお坊っちゃんの悲劇。『私』が自殺の後始末をしながら「殺人者の心理」になってしまうのが恐い。

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Miss Youghal's Sais (1887) [30]

警官 Strickland は、インド人の生活をよく知るべきだと考え、あやしげな所にまで入り込む。そのおかげで功績をあげるが、かえって不評を買う。

だが、彼はますますのめり込み、夏の休暇には変装してインド人の中に紛れ込む。そして、彼らの世界を知りすぎたために、彼らからも嫌われ、恐れられる。

その彼が Miss Youghal と相愛の仲になった。しかし彼女の両親は交際を許さない。そこで、彼は休暇をとってインド人に姿を変え、馬係 (sais) となって彼女のそばにいることにし、それはうまくいった。

ところがある日、年老いた将軍が彼女を口説くのにがまんできなくなって、Strickland は正体を現してしまう。事情を知った将軍は大笑いし、二人の結婚について彼女の両親にうまく取り計らってくれる。

Strickland は、結婚の条件として、インド人社会に入ることをやめさせられる。

――トホホな目に遭おうと、どんなに腹が立とうと、それでも彼女のそばにいられるなら。
この続編が 'The Bronckhorst Divorce-Case '。


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'Yoked with an Unbeliever' (1886) [11]

優柔不断で自立心に欠ける Phil Garron は、将来について漠然とした考えを持って、インドへ茶栽培の仕事にやってくる。高地での仕事は一応うまく行くのだが、イギリスに残してきた婚約者は2年後に他の男と結婚してしまった。

Phil は真面目に仕事を続けるうち、次第にイギリス人との交際が減り、インドを故郷と感じるようになる。そして、山岳民族の娘と結婚する。美しい彼女は賢明な妻となり、Phil の欠点を改善していく。

3年後、旅行先 Bombey で夫を亡くした元婚約者は、Phil とやり直そうと、彼を訪ねてやって来る。たが、彼は妻とうまくいっており、入り込む隙はないのだった。

――イギリス人にとってのインド = "jungle, tigers, cobras, cholera, and sepoys"。

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False Dawn

Saumarez は、Copleigh 姉妹の姉の方に恋していると思われるのだが、姉妹がいつも一緒にいるので、なかなか告白できないらしい。姉妹は二人とも彼を好いているが、妹は姉よりも見劣りする娘である。

暑くなりかけた5月、女性たちが高地に避暑に出かける前に、Saumarez はカップル参加の夜の乗馬ピクニックを開催する。その途中、突然やって来た砂嵐の最中に、Saumarez は間違って姉の方にプロポーズしてしまう。

腹を立てた妹は馬で逃げ去る。Saumarez に真意を聞いた『私』がそれを追いかけて誤解を解き、砂嵐も収まって、夜明け頃に全員帰途につく。

――ラブコメ。『私』は常に余り者である。

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The Rescue of Pluffles (1886) [05]

Simla の社交界で互いに憎しみあう Mrs. Hauksbee と Mrs. Reiver。世間知らずの Pluffles 少尉は Mrs. Reiver の虜となり、『教育』され、彼女に献身する。Mrs. Reiver は彼を便利に使い、散財させる。

彼の行く末と本国にいる彼の婚約者を思いやった Mrs Hauksbee は、7週間の闘いの後、Mrs. Reiver から Pluffles を奪い取ることに成功する。そして彼を諭し、到着した婚約者との結婚に導く。彼は Mrs. Hauksbee のアドバイスにしたがって、本国に帰る。

――女の対決。姉御肌の Mrs. Hauksbee は、39才。

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Cupid's Arrows

高地の避暑地 Simla で昔あった話。

若くて美しい Miss Beighton (Kitty) の母親は、娘を長官に嫁がせたいと願っていた。Barr-Sagoott 長官も Miss Beighton との結婚を望んでいる。しかし、長官は金持ちで気前はよいが、アジアで3番目にブ男なのだった。

Simla での避暑シーズン最後に、Barr-Sagoott は女性アーチェリー大会を企画、賞品には豪華なブレスレットを用意した。Miss Kitty がアーチェリーの名手であることを知っており、彼女の優勝を確信していたからだ。

Kitty はわざと的はずれに矢を射て優勝をさけた。母親はその場で悔し泣き。ハンサムだが出世しそうにない青年が Kitty を連れ去る。

――ラブコメ。魂胆見え見えのアーチェリー大会で、わざと的を射そこなう Kitty の腕前と、あっけにとられた観衆の沈黙が愉快。

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The Three Musketeers (1887) [21]

Mulvaney, Ortheris, Learoyd の3人組が連隊を『休日出勤』から救った話。

本国からやって来た重要人物 Lord Benira Trig が、連隊の休日とされている木曜日にパレードを見たいという。連隊長はこれを断り切れない。

Learoyd は、失敗したら返金する条件で兵隊たちから寄付を募り、中止させようとする。彼ら3人は、インド人御者と少年たちを使って、水曜の夕方に『誘拐』をでっち上げるのだった。

暗さと、現地語を解さないために、Trig は本当に「40人ほどの武装集団に襲われた」と信じ込み、そこから自分を『救出』した3人を連隊の名誉と褒め称える。彼が事件によって受けた精神的ショックのために入院したので、木曜日のパレードは取りやめとなる。

――褒美に金一封と一時帰国。連隊上層部は、あやしいと思いつつ見て見ぬフリ。

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His Chance in Life (1887) [24]

イギリス人家庭で育児係として働く Miss Vezzis と、電信局に勤める Michele D'Cruze が婚約した。

ともにインド人だが、Vezzis家は「鉄道が珍しかった頃に保線係をしていたといわれる人物」を祖先に持ち、「イギリス人の家系」であることにプライドを持っている。一方の Michele は、自分が「八分の一」イギリス人であることから、周囲のインド人を見下している。

まもなく Michele は 田舎町 Tibasu に配転される。そこで、イスラムとヒンズー両方が暴動を起こす。(規模としては新聞ネタになるほどでもなかった。)

指示を出すべきイギリス人は町にいない。彼は「イギリス支配権力の当座の代表者」となり、結果として暴動を鎮めてしまう。

翌日、行政副長官が到着した。Michele の張りつめていた気持ちはとけ、この若いイギリス人の前で彼は「ただのインド人」に戻って、ヒステリックに泣いてしまう。

副長官は、彼の活躍を手紙で上に報告してくれた。その結果、Michele はもとの勤務地に戻り、月給66ルピーに昇給した。そして、Miss Vezzis とめでたく結婚する。

――Vezzis家や Michele のプライドは、支配者たるイギリス人に彼らが抱いている感情の裏返し。ここでは、Kipling はかなり意地悪に「インド人」を見ている。

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Watches of the Night (1887) [23]

准大尉 Platte と大佐は、同じ時計を持っていた。それにつけた革紐も、見た目では違いがわからない。ある夜、二人はクラブで身支度をして、間違ってそれぞれお互いの時計を持って出かけ、同じく夜中に時計を落とし、とんでもない時刻に帰宅する。

Platte が落とした大佐の時計は Mrs. Larkyn が見つけ、大佐が落とした Platte の時計はある家の召使いが拾う。

Mrs. Larkyn は拾った時計を大佐の妻に送りつけ、夫を疑わせる。大佐の妻がそれまでに嫉妬や疑いをあおることで何組ものカップルを破滅させてきたことを彼女は知っており、罰を与えようと思ったのだ。

大佐夫妻は深刻な不仲となるが、Mrs. Larkyn は真相を明かさないまま本国に戻り、Platte は時計のことは忘れて、連帯の移動に伴い南方に移動する。

――後味の悪い悪戯。それにしても、Kipling は、宗教の教えをやたらに振り回す人物がキライだ。

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The Other Man (1886) [03]

Mrs. Schreiderling は、20才代前半で35才ほど年上の夫と結婚したが、その前に、別の男を愛していた。しかしその男は貧しく、彼女の母親は彼女を Schreiderling に嫁がせたのだった。『別の男』は他の土地に去り、健康を損なう。

結婚後何ヶ月も経って、夫人はあらゆる病気をし、夫から見放されるようになる。社交界でもほとんど相手にされない。彼女は Simla のメインストリートを馬で行ったり来たりして過ごすことが多かった。

『別の男』が回復不可能な病状で Simla にやって来ることを夫人は知っていて、待っていたらしい。ある雨の夕方、路上で彼女の凄まじい叫び声を聞いた『私』が駆けつけると、やって来た馬車の座席で『別の男』が死んでいた。

『私』はショック状態の彼女を人力車に乗せ、送り届ける。彼女は、その後も馬に乗りメインストリートを人待ち顔で行き来していたが、2年ほど経って本国に帰り、死亡したという。

――ちょっとホラー。Schreiderling 夫妻の夫婦関係も、薄ら寒い。

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Consequences (1886) [12]

インド中部から Simla にやって来た Tarrion という男が、Mrs. Hauksbee に職探しを頼んでいた。たまたま、政府の重要書類が、不注意と偶然が重なって Mrs. Hauksbee に誤配される。彼女はそれを彼に見せた。

Tarrion は政府の大物に直に会いに行き、職を世話してほしいと言う。覚えておいた例の書類の内容を彼が口にすると、大物はあわてる。さっそくコネで決まっていたポストをキャンセルして、Tarrison に回すことになった。

――重要書類の入手経路を明かさないで Tarrion に見せ、尊敬させる、さすがの Hauksbee姉御である。
なお、Consequences とは、参加者が別々に書いたものをつなげて、とんちんかんな話を作り上げるゲームのこと。


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The Conversion of Aurelian McGoggin (1887) [31]

若い McGoggin は『Humanity の思想』に取り憑かれ、誰にでも(ウェズレイ派の)説教調で自分の主義を他人に押しつけようとするので、皆の迷惑となっていた。

彼は自分の思想と能力とを過信し、医師の警告を無視して1日9時間働き続けていたが、ついに過労から失語症と記憶障害に陥る。3ヶ月間静養し、職場に復帰するが、以後口数が減って周囲は平和になる。

――この迷惑男の祖父は二人ともウェズレイ派(メソジスト)の説教師なのだが、Kipling の祖父達も同じくメソジストの牧師であった。だから、Kipling にも説教調のところがあるかもしれない。

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The Taking of Lungtungpen (1887) [26]

古参兵 Mulvaney の語る、ビルマでの珍武勇伝。若い中尉に率いられた兵隊25人は武装集団を追っていた。ある日、9マイル先の川向こうの Lungtungpen という町に敵がいることを知ると、中尉はその夜急襲することを決める。

真夜中を待って、彼らは何本かの丸太に衣服と装備を乗せ、それにつかまって広い河を泳ぎ渡った。川岸の町に着くと、彼らはすぐさま防護壁を破り、素っ裸のまま銃剣や剣を持って、攻撃をかけた。奇襲とその『姿』にも驚いた武装勢力は逃げまどい、夜明けまでに町は制圧された。一人の負傷者も出さずに、彼らは大戦果を上げた。

ただし、夜明けになって、半数が服を着る間に残りが裸のまま見回りをしなくてはならず、たいへんに恥ずかしかったということだ。

――経験が浅い中尉だからこそ、思い切った作戦がとれた。ベテランなら当然予測する危険が、初心者には見えないからだ。恐れがないところには危険はない、と Mulvaney は言う。

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A Germ-Destroyer (1887) [35]

あるインド総督の私設秘書は総督に代わって権力を振るっていた。その差し出がましさが非難されていたが、総督は黙っていた。

ある時ベンガルの E. S. Mellish という男が Simla にやって来て、秘書を通じて総督に面会を求めた。自分の開発したコレラの消毒薬を総督に認めてもらうことが目的だった。

一方、E. Mellishe というマドラスの名士も、総督との会見のために来ていた。秘書は二人の人物を取り違え、E. Mellishe へ出すべき案内を E. S. Mellish に出してしまう。

そこでやって来た Mellish が総督の前で燻煙消毒薬の使い方を実演したため、あたりが煙だらけになり、大騒ぎが起こる。総督は涙を流して笑い、愉快な体験を喜んだが、秘書は大いに恥をかくことになった。

しかも総督は何度もこの話をした。ついには「総督の座を狙って暗殺者をよこしたのかと思った」という総督の棘のある冗談にいたたまれなくなって、秘書は本国に帰った。

――インド総督(Viceroy)は5年で交代。「気楽な稼業」ではなかっただろうが・・・。このコメディに登場する秘書と騒動には、現実のモデルがあるといわれている。

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Kidnapped (1887) [22]

前途有望な公務員 Peythroppe は、Miss Castries との結婚を望む。しかし、彼女の一族が純粋イギリス人ではないため、世間は彼を非難し、あるいは思いとどまるよう忠告する。結婚すれば、彼女の親類縁者の面倒を全てみなければならなくなるだろう、と。

彼がどうしてもあきらめようとしないので、Mrs Hauksbee が一計を案じた。3人の男が Peythroppe を狩猟旅行に連れ出し、結婚式に予定されていた日が過ぎるまで監禁しておく。

戻ってきた彼は、Miss Castries の父親が好ましからぬ人物であることを知り、冷静さを取り戻して、事件は解決する。のちに、彼は釣り合いのとれた相手と結婚することになる。

――見合い結婚のススメ。イギリス人の、インド人あるいは混血の人々に対する態度。

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The Arrest of Lieutenant Golightly (1886) [06]

Golightly 中尉は何よりも自分の見た目に気を配るファッショナブルな人物である。

休暇が明けて、馬に乗って駐屯地に戻る途中のこと。召使いは先に行かせ、ホテルに紙幣を置き忘れて小銭しか持っていない彼は、大雨に遭う。その結果、おしゃれな服の染料は溶け出して汚いまだら模様になり、泥にまみれて悲惨な姿になってしまう。

切符を何とかしてもらおうと駅に行くと、手配中の脱走兵と間違われ、捕らえられる。抵抗したためさんざん殴られる。汽車で護送される途中の駅で、偶然に自分の連隊の少佐が乗った列車がやって来て、やっと助けられる。

――伊達男がひどい目に遭うコメディ。

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In the House of Suddhoo (1886)

『私』の友人である老インド人 Suddhoo は貸し部屋業を営んでいる。

間借り人の一人は、遠方に住む Suddhoo の息子の病気を治してやろうと、インチキの祈祷で Suddhoo から金を巻き上げる。

そのたくらみに気づかない Suddhoo は『私』に祈祷に立ち会うよう頼むが、それは法に触れる悪い魔法ではないことをイギリス人のダンナに認めて欲しいためである。

『私』は、別の間借り人である娼婦が Suddhoo の財産を狙っており、彼の金が祈祷師に巻き上げられて減るのが気が気でないこと、そしてヒ素を使って祈祷師を殺すつもりでいることも知っている。

しかし、『私』が当局に訴えたくても、証人その他の問題から無理であり、傍観しているしかない。

――イギリス人を利用するインド人のしたたかさと、真にインド人だけの世界には介入できないイギリス支配。

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His Wedded Wife (1887) [19]

新しくインドにやってきた少尉 Henry は、声も女のような美少年だ。男らしい遊びが苦手で、実家に手紙を書いていることが多いので、'The Worm'(弱虫)というあだ名を付けられ、いじめられた。

ある日、大尉にひどい悪戯をされた The Worm は、みんなの前で「大尉を一生忘れられない目に遭わせる」ことに1ヶ月分の給料をかけて大尉と賭をする。

2ヶ月ほど経ち、大尉は婚約した。ところがある夜、美しい若い女性が大尉の妻だと言って連隊宿舎にやってきた。本国から会いに来たのだという。大尉は上官たちをはじめ満座から非難と疑いの眼差しを浴びる。

だが、大尉の妻の正体は、例の The Worm だった。この一件で彼は人気者となり、演劇クラブの部長になる。大尉は賭金を払い、The Worm はそれを大道具や衣装代に充てた。The Worm は Mrs. Senior Subaltern (大尉夫人)と呼ばれるようになった。

――大逆転の仕返しが愉快。だが、作者は、女装の悪ふざけは危険だし悪趣味だとクギを差す。

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The Broken-Link Handicap (1887) [25]

Shackles という競走馬がいた。騎手が何もせずに静かに乗っていさえすれば、自分で好きなように走り、連勝を続けていた。あるとき、Shackles の馬主が傲慢なのに腹を立てた他の馬主たちが、ハンディキャップレースを開催する。

対抗馬の馬主は、競馬場のコース近くにある煉瓦積みが奇妙に音を反響させる構造になっていること、また、Shackles の騎手がかつて障害レース中に起こった事故で九死に一生を得たことを知り、人知れずそれを利用して、レース中に騎手をおびえさせる。

その計画はあたり、対抗馬の馬主は一人勝ちし、Shackles の馬主のプライドはうち砕かれ、ついでに賭の参加者ほぼ全員が大損する。

――インド的「人と金」事情から始まる「これがレースの真相」。

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Beyond the Pale

イギリス人 Trejago は、偶然迷い込んだ路地で15才くらいのインド人『未亡人』Bisesa と出会う。彼は Bisesa から届けられた「普通のイギリス人には解読できない」 "object letter" (品物を並べて意志を伝える)を解読し、やがて、彼女が閉じこめられている部屋に、毎夜秘密裏に通うようになる。

Trejago は Bisesa を愛するが、彼女との関係を隠すためにイギリス人女性と交際し、それを知った彼女は、彼の説明にも納得しようとしない。

別れ話を持ち出され、困った彼がしばらく逢わずにいた後に訪ねてみると、その間に二人のことが家人に知られるところとなっていた。

彼女は不倫の罪により両手首を切り落とされており、Trejago もこの時家の中から突き出された槍に太股を刺され、後遺症が残る。

――外部のものを拒むインドの闇。語り手は、人間は自分の「caste」すなわち人種や育ちの範囲内にいるべきだと言う。Plain Tales の中でも名高い一編。

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In Error (1887) [17]

土木技師 Moriarty は、たった一人で僻地で4年間過ごし、アルコール中毒になっていた。政府からの命令で Simla にやって来た彼は、ポストを探す。

ちょうどその頃は Mrs. Reiver の全盛期で、彼女は何人もの男性を支配下に置いていた。彼は、悪名高い彼女を「天使のような女性」と誤解して、彼女の崇拝者となる。そして、彼女にふさわしい男になろうと、必死でアルコール中毒を治す。

――信じる者は救われる。

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A Bank Fraud (1887) [27]

インド北部地方のある銀行支店で Reggie Burke がかつて働いた『銀行詐欺』の顛末。

Reggie Burke は、二つの顔をもつ人物である。つまり、16:00〜22:00には社交と娯楽の名人、そして10:00〜16:00には有能な銀行支店長として、別人のごとく存在するのだ。

その Reggie のもとに、本国から新しい会計係 Silas Riley がやって来た。Riley は経験が浅いのに自信過剰で融通が利かず、インドのこともわかっていない。しかし彼は上司の Reggie を業務にふさわしからぬ低俗無能な人物と決めつけ、重役との関係を持ち出して Reggie と衝突する。

やがて、もとから肺病を患っていた Riley の症状が悪化する。半年ほど経って、経営陣は彼の解雇を決定。彼の余命が3ヶ月と診断された頃、解雇通知が届く。

Reggie はそれを本人には知らせない。病床に通っては仕事の相談(のフリ)を欠かさず、ポケットマネーで彼に給料を支払い、彼を励ますために経営陣からの見舞いの手紙や昇給通知をでっちあげる。それらは功を奏して Riley の命は少し延びたが、ついに死んでしまう。「9月分の月給を母親に送金してほしい」と言い残し、自分亡き後の支店の将来を気にかけながら。

Riley の父親は国会議員のコネを利用してインドに Riley のポストを得てやった。その父親が死んで、別の人物のコネが優先されたために、病身の彼は解雇された。彼はそうした事情をまったく知らずに死んだのだ。

Reggie 本人は今は香港にいるのだから暴露してもばれないだろうと、語り手は言っている。


――Reggie は、Riley の臨終に、新たな『経営陣からの励ましの手紙』を持ってきていたが、使わずじまいだった。「10分早く来ていれば、あと1日は命を延ばせたのに」と言う彼の格好良さは、どこから来るのか。

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Tods' Amendment (1887) [28]

Simla に住む6才のイギリス人少年 Tods は、地元のインド人と親しみ、英語よりも現地語の方が自由に話せる。Tods は召使いやバザールのインド人たちのアイドルとなっていた。

ある時、植民地政府が農地の貸借に関する地方の法律を改正しようとした。Tods は、自宅にやって来た法改正委員に、バザールで聞いたインド人たちの話をし、彼らが法案の内容に不満を持っていることを知らせた。

委員は実情を調査し、Tods の言ったことが正しいと認めると、法案を修正した。

――考える時は現地の言語を使い、英語は外国語のように感じられる、半分インド人的存在。 Tods は後の Kim であり、また Kipling 自身の幼時の姿でもある。

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The Daughter of the Regiment (1887) [34]

Miss McKenna とダンスをして面食らった私に、Mulvaney が連隊でかつて起こった出来事を語る。

酷暑の夏、当時まだ新しかった鉄道で600マイルの移動をするよう、連隊に命令があった。移動中、2編成の列車の一方で、コレラが発生した。

駅に停車した列車の中で、女性12人と子供13人を伴った4中隊から、次々と犠牲者が出た。その状況下で、下士官の妻 Mrs. McKenna は4才の娘と共に他の女性を指揮して兵士達の看病に当たる。

やがて医師が到着し、彼らは救われる。しかし、その直前、Mrs. McKenna は日射病で死んでしまう。その後、その娘 Miss McKenna はある軍曹の妻に育てられたが、彼女はB中隊みんなの娘でもあった。

Mulvaney は、彼女がいつまでも独身でいることを死んだ Mrs. McKenna に対して申し訳なく思い、伍長に昇格する Slane を脅して、彼女に求婚させた。

――続編に Soldiers Three の 'In the Matter of a Private'。

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In the Pride of his Youth (1887) [33]

Dicky は21才で結婚し、高額の給料を期待して、単身インドにやってくる。結婚していることは隠して、せっせと本国の妻に送金し、また彼女がインドに来るための旅費を貯める。

しかし Dicky が一切の楽しみや付き合いを断ち、生活を切りつめて送金しても、妻の生活を維持するには足らなかった。また、昇進を目指して猛烈に働くが、年功序列の社会ではその効果が現れない。

妻は Dicky がインドで遊び暮らしていると誤解し、子供が生まれて間もなく死んだのも、彼の仕送りが不十分だったせいにする。そしてついに他の男と結婚しまった。

失意の Dicky に、功績による昇進の知らせがあった。しかし、彼は仕事を辞めてしまう。

――夢の『インド成金』と現実とのギャップ。サラリーマンの悲哀。

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Pig (1887) [38]

Pinecoffin に騙され性格の悪い馬を買って死にそうな目にあった Nafferton が、報復を考える。

政府は、誰かのプロジェクトについて情報を提供するよう、経験者や関係者に命じる習慣がある。このことを利用して、Nafferton は「ブタを食糧として陸軍に供給するプロジェクト」をでっちあげ、農業に興味を持つ Pinecoffin にブタに関するあらゆる資料を提出させる。

Pinecoffin にさんざん報告書を書かせた後、Nafferton は政府に「役に立たない」と手紙を送り、新聞に彼を酷評する記事を載せる。ショックを受けた Pinecoffin は Nafferton に会いに行き、何故そのような目に遭ったのかを知らされる。

――手の込んだリベンジとして悪戯をする話。官僚主義の諷刺でもある。

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The Rout of the White Hussars

White Hussars 騎兵連隊の軍楽隊でドラム運びに使われていた斑毛の馬を、新任の連隊長が不要品とみなして売り払おうとする。連隊一同はこれに激しく反発する。

結局、馬は一般公開の競売にかけられるが、それを競り落としたのは Hogan-Yale 中尉であった。軍関係者は競売への参加を禁じられていたのだが、「予測される労役や飢えから救うために安楽死させる」のだと言って、許される。

連隊は馬の葬儀を盛大に行う。連隊長は報復として、一日厳しい訓練を課す。ところがその日の夕方、死んだはずの馬が、骸骨とドラムを載せて現れる。(実は Yale の差し金。) 連隊はパニックに陥り、馬でさんざん逃げ回る。

連隊長は激怒するが副官に説得され、馬を元の役目に就かせることにする。連隊は狂喜して連隊長に感謝する。兵隊はほんのちょっとしたことで上官を敬うようになるものだ、という副官の教訓。

(埋葬された馬は身代わりで、Yale が自分の飼っていた老馬にペイントで斑をつけたのだった。)

――馬の葬儀とパニックの場面、そして連隊長が骸骨つきの馬を調べる場面は、爆笑もの。

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The Bronckhorst Divorce-Case

中年男 Bronckhorst は、妻に暴力を振るい、精神的に虐待するのを常としている。Bronckhorst 夫人は友人もなく、ただ子供だけを生き甲斐にして、毎日の生活に耐えていた。

Bronckhorst は、妻とBiel という男との不倫を裁判に訴える。インド人召使いの証言だけでは有罪にならないだろうが、身に覚えがない Biel は真実を明らかにしたいと願う。友人の発案で、警察官 Strickland に調査を依頼する。彼は、結婚後やめてはいたが、変装してインド人社会に入り込むのがうまかったのである。

インド人召使いたちが Bronckhorst から妻に不利となる嘘の証言をするよう指示されていたことを、彼は突き止める。裁判当日、召使いたちは正体を現した Strickland を恐れ、証言をしない。

裁判が終わり、Bronckhorst は Biel に鞭でさんざん打たれる。Bronckhorst 夫人は親身に夫を手当てし、やがて傷が癒えると一家は本国にもどる。

――裁判における、インド人証言の扱い。ストーリーとしては、'Miss Youghal's Sais' の続編。警官 Strickland の登場する話は他にもあり、Kim にも姿を見せている。

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Venus Annodomini (1886) [10]

Venus Annodomini と呼ばれる女性は、「年をとらない」存在である。また、Mrs. Hauksbee や Mrs. Reiver と違って、策を労さなくても男性に好かれ、取り巻きは多い。

その中でも、若いGayerson は彼女に熱烈な恋心を抱く。しかし彼女に19才の娘があると知って落胆する。(彼自身は22才である。) さらに、自分の父親もむかし彼女に熱を上げていたことを知る。

――Simla 社交界の恋愛パロディ。「Annodomini」は「Anno Domini」、西暦元年。それにしても、インド植民地ではイギリス人女性が少なかったようだ。

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The Bisara of Pooree (1887) [20]

The Bisara of Pooree とはルビーをちりばめた銀の小箱で、中には眼のない小さな魚の彫刻が入っており、魔法の力を持っている。これを盗んで持っている者は、それを持っている間、思いを寄せる相手から必ず好かれる。それ以外の方法で手に入れた場合は、身の破滅または死を招く。

誰からも嫌われる男がこれを盗み、魔法の力を用いて美女と婚約するが、インドの事情に詳しいある人物がそれを盗み出し、人目に付かない場所に隠してしまう。すると美女はたちまち男のもとから去ってしまった。

――インドの不思議。

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A Friend's Friend (1887) [32]

『私』は遠方の友人から、その友人である見知らぬ男の旅先での世話を依頼される。イギリスから来たこの男は下品かつ無礼な人物で、そのために『私』は肩身の狭い思いをさせられる。

あるパーティーでのこの男のひどい振る舞いに腹を立てたクラブのメンバーと『私』は、酔いつぶれた男をさんざん懲らしめて、布でぐるぐる巻きにして荷馬車に放り込む。それ以後、その男の行方はわからない。

――ラスト近く、"He just went into the black darkness of the end of the night, and was swallowed up. Perhaps he died and was thrown into the river." とシラッと言うのが、不気味。

イギリスから来たこの男はほぼ全世界を制覇した旅行人で、函館のあやしげな茶店仕込みの日本語で悪態をつくというのだが。


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The Gate of the Hundred Sorrows (1884)

『私』の友人 Gabral Misquitta の語った話をそのまま記した文章、という体裁になっている。

Gabral Misquitta は印欧混血人で、5年来のアヘン常習者である。伯母の遺産一月60ルピーを収入として、中国人 Fung-Tching の経営する「the Gate of the Hundred Sorrows」と呼ばれるアヘン屋に寝起きしている。

Gate が店開きした当時に知り合った10人のうち、今は半分しか残っていない。Fung-Tching が死んでその甥が店を引き継いで以来、店は汚くなり、格も下がった。しかし Misquitta は出ていこうとはせず、むしろ Gate での死を望んでいる。

また、彼の 60ルピーは Fung-Tching の甥が自分のものとしているが、Misquitta は自分が死ぬ時の望みを叶えてくれるなら、それをずっと与えてもよいと考えている。

――アヘン窟を描く。アヘンの煙の中、彫刻の龍が動きだし闘う幻覚。普通のイギリス人の知らない世界。

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The Madness of Private Ortheris

『私』は、友人である兵卒 Mulvaney、Ortheris の2人と狩りに出かける。楽しく過ごしていたのだが、昼食時、Ortheris が軍隊生活の不満をこぼし始め、やがてホームシックの発作を起こして精神に混乱を来す。心配する Mulverney によれば、以前にもあったことだという。

『私』は Ortheris と衣服を交換し、脱走の手順を話して、逃走資金を用意してくるから暗くなるまで待つようにと、彼を川岸に一人放置する。

夜になってから戻ってみると、『私』の思惑通り、Ortheris は正気にかえり、自分の軍服に着替えると落ち着きを取り戻す。

――兵隊の生活は "battle, murder, and sudden death"。大英帝国を支える無名の人々。なお、例の3人組のもう1人 Learoyd は、この話では入院中ということになっている。

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The Story of Muhammad Din (1886)

使い古したポロのボールを幼い息子 Muhammad Din のために欲しいという召使い Iman Din の願いを、『私』は聞いてやる。

ある日、Muhammad Din はダイニングルームに侵入したところを『私』に見つかる。罰を恐れるこの子供を、『私』は特段とがめずに放免する。それ以来、『私』と Muhammad Din は毎日庭で挨拶を交わすようになる。

友達のいない Muhammad Din は、庭の隅にがらくたで『宮殿』を作って遊んでいたのだが、ある夜『私』はうっかりそれに踏み込んで破壊してしまう。

主人を立腹させたのだと思う Muhammad Din に『私』は「庭で好きなようにしてよい」許可を与え、それ以後、彼の『宮殿』づくりを見守ることになる。

数ヶ月後、Muhammad Din はマラリアにかかり、『私』が医者を呼んで薬を与えた甲斐もなく、1週間後に死んでしまう。

――"Talaam, Tahib." "Salaam, Muhammad Din." 毎日の挨拶に込められた、心のふれあい。しみじみとさせる話。(Talaam, Tahib. = Salaam, Sahib。 舌が回らないのである。)

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On the Strength of a Likeness (1887) [16]

Hannasyde は無骨で女性にもてない男で、失った恋を心に秘めて一種の満足を感じていた。ある夏、Simla の街で、彼はかつての恋人とそっくりの女性 Mrs. Landys-Haggert を見かた。

彼は機会をとらえて彼女と近づきになり、かつての恋人と一緒に過ごしているのだと思いこむことにした。彼は Mrs. Haggert 自身に興味はない。しかし、彼のその『つもり』は相手にばれてしまう。

一人になった Hannasyde は、Mrs. Haggert が昔の恋人の代わりではなく、それよりもずっと素晴らしい女性だと気づくのだが、どちらの女性も人妻であり、彼にはどうしようもないのだった。

――だから、最初の恋人にも愛想をつかされたのだろう。

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Wressley of the Foreign Office (1887) [36]

インドで仕事をする者は自分の仕事が政府の要と思うようになるものだが、中年男 Wressley もその例にもれず、自分を「インド安定に不可欠な存在」だと思い込み、仕事だけに生きていた。

そんな Wressley が、可憐な(しかし中身のない)娘 Tillie Venner に一目惚れし、何とか彼女の気をひこうとする。彼の作戦は、彼女に本を書いて捧げることだった。彼は1年間の休暇を取って、中央インド諸藩王国を調査分析し、素晴らしい専門書を書き上げる。

しかし、その本は彼女にろくに読んでもらえず、「全くわからなかった」と言われ、Wressley は打ちのめされる。数年後に彼は退職し、その際『私』にその労作をタダでくれた。それが書かれたいきさつをストーリーにするように、と。

――仕事に対して自分の必要性を過大視していなければやっていけるものではない、と『私』は言う。それは大なり小なり普遍的なことだろうが、「atmosphere」のないインドにおいてはその傾向が極端になるのだろう。

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By Word of Mouth (1887) [39]

医師 Dumoise は、愛する妻を腸チフスで失い、仕事は完璧にこなすのだが、人付き合いを断って引きこもってしまう。

心をなぐさめるために、Dumoise は風光明媚な山間の村に出かける。彼は「怠け者で泥棒」と語り手の言うインド人召使いを連れて行くが、それは亡き妻がその召使いを気に入っていたからである。

ある夜、召使いが「死んだ奥様を見た」と言っておびえる。夫人は彼に「旦那様に、来月 Nuddea でお目にかかりますと伝えなさい」と命じたのだという。

Nuddea は遥か南方の Bengal の町で、Dumoise にも召使いにもまったく関わりはない。(Plain Tales の舞台は主に北インド地方。)

Dumoise が家に戻ると、Nuddea で発生中のコレラ救援命令が来る。彼はその地に赴き、11日後に死んでしまう。

――怪談。「腸チフスの死亡率5人に1人、助け合いの看病しかない」というのが、それに劣らず恐い。

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To be Filed for Reference

『私』が隊商宿で知り合った飲んだくれの浮浪者 McIntosh は、7年前から最底辺の生活をしている。

生活のためにイスラムに改宗し、イスラム教徒の妻と暮らしているが、ギリシア語、ラテン語、ドイツ語の知識を持ち、もとはオックスフォード出のエリートであった。('The Gate of the Hundred Sorrows' より、もと弁護士と考えられる。)

プライドの高い McIntosh は『私』からはタバコしか受けとろうとしない。しかし死に際して、自分が転落した7年間にインドの最下層で見聞きしたことを記した 'the Book of McIntosh Jellaludin' の原稿を『私』に託す。

――Plain Tales 巻末に収録。幻の作品 Mother Maturin は、McIntoshのこの原稿をもとにしたという設定。

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以下2編は、短編集 Plain Tales from the Hills (1888) には含まれず、
のちの全集で Plain Tales の巻に追加された。
それぞれ、Miss Youghal's Sais と The Other Man の次におかれている。

Bitters Neat (1887) [29]

Surrey という男がいた。平均的年収の、どこにでもいるようなごく普通の男だが、何につけても消極的で、仕事しかせず、女性に興味を持つこともない。

一方、結婚相手をさがしにインドに来ていた Miss Tallaght も、彼と同様パッとしない存在だった。その彼女が、Surrey に一目惚れ同然となった。彼の退屈さは謙遜に見え、何かの分野では素晴らしい人物なのだと思いこむようになる。

Miss Tallaght は自分の気持ちを明かさず、Surrey も彼女のそぶりに気づかないまま数ヶ月経って、別の男が彼女に求婚する。彼女は断る。彼女の面倒を見ている伯母は真相を知って、判事の妻に『相談』した。それは次々に伝わり、ついに町中が知ることとなった。Miss Tallaght もそれに気づき、本国へ帰って独身のまま死ぬ方がいいと言う。

彼女がいなくなってから、Surrey は彼女のことを聞いた。彼だけが知らなかったのだ。

――「知ってさえいれば」と彼は後悔するが、「知っていたって・・・、」と語り手は言う。

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Haunted Subalterns (1887) [37]

Tesser と Horrocks という二人の少尉は、怪現象に悩まされていた。Tesser の被害は、留守中に居室が荒らされ、自分のバンジョーが弦がないのに曲を奏でることで、Horrocks のほうは、白いものが二つ、夜中に部屋中をはね回ることだった。

Horrocks は、相手がつけあがらないように無視していたが、白いものは3つに増えた。Tesser は悪戯の犯人をつきとめようとするが、どうしても姿は見えない。状況から考えて、どちらも本当に幽霊らしい。

二人の出張先でも、幽霊は Tesser の部屋を荒らした。(Horrocks のほうには現れない。) バンジョーが鳴っている最中に、二人は部屋にショットガンとピストルを撃ち込んだ。だが、誰もいない。バンジョーがベッドに載っているだけだった。

ついに Tesser は北部への転属を願い出て、その地では怪現象は起こらなかった。

――Horrocks は、Tesser を悩ます怪現象を「ぶち殺しに値する悪戯でなかったら、インドの魔物を怒らせたせいかも」という。やはりインドの謎は深い。

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