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このサイトでまだ短編集ごとにまとめていない作品紹介をおいてあります。
タイトルにつけた
(西暦)は初出年を表します。

SOLDIERS THREE (1888)
With the Main Guard
Black Jack

IN BLACK AND WHITE (1888)
Dray Wara Yow Dee
The Judgment of Dungara
At Howli Thana
Gemini
At Twenty-Two
In Flood Time
The Sending of Dana Da
On the City Wall

MANY INVENTIONS (1893)
Finest Story in the World, The

TRAFFICS AND DISCOVERIES (1904)
'Wireless'
'They'

REWARDS AND FAIRIES (1910)
Marklake Witches




SOLDIERS THREE

With the Main Guard (1888)


6月の深夜1時。夏のインドの酷暑にあえぎながらの当番にあたる3人組ともう1人の兵士。Learoyd が落ち込んでいる。そこを訪れた『私』は、かつて Ortheris が極度のホームシックで精神を混乱させたことを思い出し、Learoyd の気を引き立たせるために、Mulvaney に話をするようにすすめる。

Mulvaney は、彼らの体験した激戦の話を始める。

ある時、対アフガン戦で窮地に立ったスコットランドとグルカの部隊を救援するために、2つの連隊 Black Tyrone と Ould Regiment からそれぞれ1中隊が派遣された。Black Tyrone の中隊を指揮するのは経験が浅く役に立たない若い将校、3人組が所属する Ould Regiment の中隊は歴戦の O'Neil大尉が率いていた。

狭い谷で、アフガンとの接近戦になった。Mulvaney たちの正面には敵の刀が迫り、うしろからは Black Tyrone の中隊が前に進もうと押してくる。彼らは仲間が殺されたので復讐心に燃えていたのだ。

Black Tyrone の将校は安全な場所で軍曹に拘束されていた。O'Neil大尉の言うように、「子供の出る幕」ではなかった。大尉は地形に合わせて部隊を散開させ、敵を押し戻し、谷の狭い部分に追い込んで壊滅させた。

彼らは死んだ仲間を土に埋め、負傷者を運んだ。そこへ参謀将校が現れ、「何をしているのか」尋ねた。現場に無知な参謀将校の言い方に、ひとりの兵士が女の声色を使ってからかった。その兵士も、翌週病院で死んだ。

Mulvaney の話が終わる頃には、Learoyd は落ち込みから回復していた。4時になり、当番が終わった。外に出ると、暑さで家からさまよい出た子供が眠っていた。彼らはその子を連れて帰ってやる。

「他人を救うあいつらは、自分を救えるでしょうかね?」 Mulvaney が『私』に言う。

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Mulvaney が最初に所属していた連隊はアイルランドの Black Tyrone で、彼は喧嘩をしたため、そこから Ould Regiment に移されたことになっている。Black Tyrone は、兵士たちの素行の悪さだけでなく、大胆不敵なことでも知られていた。(ともに架空の連隊)

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Black Jack (1888)


『私』が尋ねていくと、Mulvaney は懲罰教練の最中だった。服装検査の時に軍曹から言いがかりに近いとがめを受け、彼が言い返したことが原因だ。

Learoyd と Ortheris は懲罰が終わって出てきた Mulvaney について何マイルも歩き、川岸に腰を下ろした。離れて後をつけた『私』は、彼らにビールを振る舞う。落ち込んでいた Mulvaney はやがて口を開き、昔の事件を話し始める。

Black Tyrone 連隊にいた時、彼は連隊の名誉のためにある男の命を救った。その男は O'Hara という下士官で、誰からも嫌われていた。

ある日、Mulvaney は同室の12人が密かに相談しているところを偶然目撃する。彼らは O'Hara が人妻と逢っているところをMulvaney の銃で射殺して、罪を彼にかぶせようというのだ。

彼らの計画を知った Mulvaney は、偶然会った火器係の軍曹から新式銃の事故を防ぐ取り扱い注意を聞き、自分の銃に事故が起きるよう細工をする。

Mulvaney が部屋のベッドで眠ったふりをしていると、密談でカードのブラックジャックをひいた男が彼の銃をラックから取り、ベランダから O'Hara を狙って発泡した。

Mulvaney の狙い通りに銃は暴発し、狙撃者の顔を大きく傷つけた。O'Hara は冷静さを失わず、怪我人を運ばせるといったんは部屋を見に来たが、すぐに女と去っていった。

翌日 O'Hara は「事故」の報告書を提出する。兵たちが普段から新式の銃に興味を持っていじくり回していたので、疑いは持たれなかった。12人の兵は彼によってバラバラに配置換えされた。

Mulvaney の忠告を無視した O'Hara は、その後別の不倫相手の夫に殺された。

Mulvaney の話が終わった頃には日がくれていた。彼らは『私』の馬につかまり、駆け足で宿舎に戻った。

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「勇敢」であることと「正しい」こととは、全く別系統の属性。ただ Mulvaney がまんまと陰謀の裏をかいた話ではなく、このおっさん独特の、人間のしみじみしたところが感じられるのではないだろうか。

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IN BLACK AND WHITE

Dray Wara Yow Dee (1888)


あるアフガン人の独り語り。書き手は(Delhi の南の方に仕事で来ていたらしい)、隊商宿でこの旧知のアフガン人とばったり会った。アフガン人は馬を連れ、アーモンドやレーズンなどの商品を運んでいた。彼は書き手にアフガンの友人たちの近況を伝える。

しかし、売り物の馬は疲れて調子が悪く、彼自身もやつれ果てて、様子がおかしい。ようやく語ったところによれば、彼は不実な若い妻の首を切り、その愛人 Daoud Shah を殺そうと北方からはるばる追ってきたのだった。

アフガニスタンからインドへ、インド各地を逃げ回る Daoud Shaha をつかまえようと、商人を装った彼は苦しい旅を続けた。彼の頭の中では、Daoud Shah が彼の妻と逢っていたときに歌っていた歌がくりかえされる。「Dray wara you dee! (All three are one)」。

相手を殺すまで、彼の苦悩は終わず、眠りもない。だが、もうすぐ復讐は終わると彼は言う。

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「首なし死体、光なき魂、闇の中の心」。「火、灰、寝床」。「太陽の目、月の目、眠らぬ目」。3つでひとつ。もともと、彼と妻と愛人の3人がひとつの関係にあった。復讐が終われば当人も死んでしまう予感が。

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The Judgment of Dungara (1888)


インドの山村 Buria に、伝道所の跡がある。かつてドイツ人宣教師が妻とともにやってきた。しかし彼らと、新しい教えを信じた村人には Dungara神の神罰が下ったのだ――そう地元の神官 Athon Daze は言うが・・・。

この地方を任されている副収税官は地元の風習や信仰に干渉せず、人々が生活上必要とすることを援助してきたので、彼らに慕われていた。

ある日、彼は捨て子を拾い、ドイツ人宣教師の元に届けた。その子の母親は、伝道所までこっそりと彼についてきた。その夫もやってきて、彼らは最初の改宗者となった。これがきっかけで、信者の数は増えた。

これを快く思わない神官 Athon Daze は、改宗する気持ちがあるふりをして、彼らに近づいた。

ある時、収税官夫妻が視察に来ることになった。40ほどの人々が、新しい白い服を着て出迎えた。それは Athon Daze が教えて、ある植物の繊維で織ったものだった。

収税官夫妻が到着したその時、出迎えに並ぶ人々は、我先に服を脱いで川に飛び込んだ。布を調べた副収税官には、Athon Daze のたくらみだとわかった。触れるとかぶれる植物を使わせたのだった。

人々は Dungara神の神罰だと信じ、元の信仰に戻った。宣教師夫妻はこの地を引き揚げ、伝道所は朽ちるままになっている。

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Kipling は、たいていの場合はインドに伝道しようとする人々に意地悪だ。それに対し、地元の文化風習を尊重しつつ人々の生活の役に立とうとする人物が理想的に描かれる。

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Gemini (1888)


Durga Dass という金貸しが語った話。

Durga Dass には Ram Dass という双子の弟がいた。2人は仲が悪く、それぞれ独立して Isser Jang という村で金貸しをしていた。

Ram Dass はある地主に大金を貸し、地主は返済ができなかったので、Ram Dass は裁判に訴え、畑などを自分のものとした。地主は報復として Ram Dass を襲うが、彼は彼らが間違えて兄の Durga Dass を襲うようにし向け、自分は難を逃れた。

Ram Dass は Durga Dass を家に連れて帰り、介抱する。心を許した Durga Dass は、地主に対して訴訟を起こす計画をうち明ける。

しかし、Ram Dass は兄の症状を悪化させるようにし、眠っている間に兄の全財産を奪って逃げた。しかも、自分が地主に襲われたとして訴訟を起こし、裁判に勝って金を手に入れていた。証人には、Durga Dass が彼に話していた村人が雇われた。

目を覚ました Durga Dass は一文無しになっていた。わけを知った村人たち(彼が金を貸していた相手)からは嘲笑を浴びた。村人は死にかけの小馬と4アンナを彼に与え、村を出ていくように言った。

白人の法廷が間違っていることを訴えたいために、彼はこの話を書き残してもらうべく書き手に語ったのだった。

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Durga Dass の一方的な主張なので、どこまで信じてよいやら。確実なのは、彼がひどく痛めつけられたことと、一文無しになったこと、そして、冷酷非情な金貸しとして村人に嫌われていたことだ。

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At Twenty-Two (1888)


Janki Meah: 盲目の老人。炭鉱の22番坑で坑夫として30年間働いてきた。ケチで金を貯め、2人目の妻を手に入れた。
Unda: Janki の妻。若く美しい。
Kundoo: Janki の属する班の若い班長。

Unda と Kundoo とは、金が貯まったら、Janki の家の金目のものを持ちだして駆け落ちするつもりでいる。

ある日、大雨のため川が氾濫して、22番坑が浸水した。地下で働く人々は急いで避難したが、Janki と Kundoo を含めて周縁部で作業していた3班16人の男と10人の女が取り残された。水はどんどん流れ込んでくる。

炭鉱は縦坑を中心に、横坑が幾層にも掘られている。彼らは Janki の記憶を頼りに闇の中を上層へと逃げる。そうして、隣の横坑まで穴を掘りつなぎ、別の縦坑から無事に脱出した。

数日後、Unda は Kundoo と二人で逃げた。

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命の恩人を裏切って駆け落ち。あきれるイギリス人。しかし、彼らには彼らの『合理性』があるのだろう。

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In Flood Time (1888)


豪雨で川が増水した。川止めとなり、渡しに使うゾウも川の怖さを知っていて、入ろうとしない。その渡し場で、年老いた管理人が語る話。

老人は30年間、この渡し場で働いてきた。自分も老いたが、時代も変わった。鉄道ができて、渡し場も寂れた。

昔、彼が若くてたくましかった頃、下流の対岸にある村に住むヒンドゥーの女と恋仲になった(彼はイスラム)。彼女は若く、結婚後まもなく夫を亡くしていた。彼は夜になると川を泳ぎ渡っては彼女に会いに行った。見つかれば殺される相手であることも承知の上だった。

ところが、ある男が二人の秘密を知り、黙っていて欲しければ自分と結婚するようにと女を脅迫するようになった。

そんなある時、彼が泳いでいる最中、急に川が増水した。洪水はまたたくまにあたりを飲み込み、流された彼はかろうじて鉄橋にひっかかって助かった。だがその鉄橋も水没し、水の勢いで桁が落ちた。

力つきようとしたとき、死体が流れてきた。死後何日かたって膨張し、水によく浮いた。彼はそれを浮き袋に使い、なんとか岸に着くことができた。彼はその死体を葬ってやろうと、水から引き上げる。

たどり着いたのは彼女の住む村だった。いつもの場所は水没を免れており、そこには彼女が待っていた。彼らは再会をよろこび、彼は『命の恩人』を彼女に見せる。

しかし、それは彼女を脅迫していた男だった。彼は死体を水に落とした。

――流れが少し穏やかになった。「今のうちに」と、彼は書き手をうながし、ゾウ使いに準備を急がせる。

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あらゆる『死んだもの』と一緒に流れてくる水。洪水のすごさと、その中でも自分の力を信じ、「彼女に会うまでは死なない」と覚悟する若者。最後の皮肉な真相。同じく男女の密会と『水』を扱う 'At the Pit's Mouth' (Under the Deodars) の軽薄で愚かなケースとは好対照。

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On the City Wall (1888)

Lalun は「もっとも古い職業」の女で、その家は、市壁の東門の上にあった。窓のすぐ下は濠で、郊外が見渡せた。ここには様々な人種や宗教の男たちが集まってくる。そのため、Lalun はあらゆる情報に通じている。『私』は時々ここを訪ねては、人々を観察している。

ある時、Lalun が窓辺で歌っていると、町を見下ろす古い砦の城壁に老人が見えた。その老人は政治犯で、過去3回にわたりイギリスと闘ったシーク教徒の英雄 Khem Singh だった。長年ビルマに抑留されていたが、故郷に帰されて、砦内で英軍に身柄を拘束されていたのである。

十月になり、イスラムの祭が近づいた。この町はイスラムとヒンドゥーに二分されており、大きな祭には両者の争いが暴動につながるおそれがあった。祭の前日、Lalun の部屋には『私』の知らない男たちが集まり、散っていった。

祭が始まるとすぐに混乱が生じた。『私』が彼女の家に行くと、濠から一人の老人を引き上げているところだった。『私』は、その人物を別の市門まで連れて行くよう頼まれる。

混乱した町を抜けて目的地にたどり着くと、老人は別の男が用意していた馬車で立ち去った。夜が明ける頃には騒動は鎮まった。

あとで知ったところでは、例の老人は砦から脱走した政治犯Khem Singhであった。しかし昔の彼を知る人々は老いて死に、あるいは考えを変え、一方若い者たちにとっては彼の名声も過去のもので、しかも彼らは収入を得るためにイギリス軍に入っていた。結局老人は自分の意志でイギリス人のもとに戻ることにした。

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かつての英雄も、名声は過去のものとなり、人々の現実生活は時とともに変化し、イギリス人に監禁される以外には居所がなくなってしまう。

英雄であった老人を尊重して人間味ある処遇をする司令官代理の中尉。インド人を一からげにして軽蔑する司令官。精神的にどっちつかずであったが、暴動の中で熱狂的なムスリムの精神が表面化する軟弱男。類型的で楽しい人物も登場


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MANY INVENTIONS

The Finest Story in the World (1891)


作家である『私』は、ロンドンのビリヤードクラブで Carlie Mears という青年と知り合った。歳は20才、銀行員である。

彼は文学的創作で名をあげたいという夢を持ち、詩や劇を書いていたが、作品を見れば才能のないことは明らかだった。しかし、書くのではなくストーリーのアイディアを話させると、古代ギリシアのガレー船や奴隷など細部まで完璧に描写するのだった。

『私』はアイディア1本を5ポンドで買う約束で、Charlie に話をさせる。Charlie によれば、そうした物語は自然に浮かんでくるのであって、読んだり見聞きしたりしたものではないという。

ある日、『私』は顔見知りのインド人留学生 Grish Chunder に Charlie の話をする。彼は、Charlie は生まれ変わりの記憶を無意識に保っているのだが、恋愛をすればそうした記憶は消えてしまうだろうと言う。

『私』は Charlie の話をもとに世にも素晴らしい物語を書こうと思っていた。しかし、それは夢と消えた。久しぶりに会ったCharlie はタバコ屋の女店員との恋に夢中になり、ガレー船奴隷のこともヴァイキングのことも、すべて忘れてしまっていたのである。

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ヒンドゥー教徒の Grish Chunder ならわかるが、クリスチャンである Charlie に『前世』があったとは。一方で、Grish Chunder は、そうした記憶は 「Trailing clouds of glory」だと、Wordsworth を引用する。なんだか皮肉っぽい。

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REWARDS AND FAIRIES

Marklake Witches (1909)


Una が放牧場で乳搾りをしていると、Puck が少女を連れてきた。13才のUna よりも3つ年上の、19世紀はじめ、英仏戦争のころに近くの Marklake に住んでいた郷士の娘で、 Philadelphia という。彼女が語った、ちょっとした事件の話。

彼女は、自分の乳母が無断で持ち出した銀のスプーンを取り返すために、ホワイトウィッチ(呪術医)の Jerry Gamm の家に出向く。乳母は Philadelphia を健康にする魔法を彼に依頼していたのだ。Jerry はスプーンを返し、彼女に咳を治す健康法を教える。

彼女の家には、父親が捕虜として預かっているフランス人医師 Rene Lanark がいた。Rene は 彼女から Jerry の話を聞くと彼に会いに行き、意気投合して、暇があれば彼の家で過ごすようになった。

ある日、彼女は Rene を呼びに Jerry の家に行って、木の上から彼らのやっていることをこっそりと見聞きする。Rene は木製の聴診器を考案して、それを試していたのだった。

そこへ、村人たちが押し掛けてきた。Jerry は村人たちにそれを使ってみたのだが、迷信深い彼らは聴診器を「悪魔の耳あて」と呼び、人の生気を吸い取り弱らせて殺す道具だと信じ込んだのだ。

村人と一緒に来た医師の Dr. Break と Rene が一悶着、あわやピストルで決闘というとき、Philadelphia の父親が客とともに通りかかった。Rene は適当にごまかし、何事もなく済んだ。ただ、彼女が木から落ちて、お転婆がばれたことを除いては。

その夜、屋敷では盛大なディナーが開かれた。ディナーのあと、Philadelphia はハープと歌で紳士たちを感動させた。

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田舎ではまだ魔法が日常に生きていた時代。医師と魔法使いの境目はときとして曖昧だった。しかし、こうした地道な努力のおかげで医療器具も発達してきたはず。しかし、女のコたちの興味は、家の中を管理する『主婦』の地位や、素晴らしいドレスや歌の出来映えにある。『歴史』を押しつけないところがいい。

聴診器は1816年にフランスのラエネク (Rene Theophile Hyacinthe Laennec) によって発明された。

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Traffics and Discoveries

'Wireless'(1902)

この短編のタイトルにはもとから ' ' がついている。


寒い冬の夜、『私』は長距離無線電信の実験を見るために、懇意にしている薬剤師の薬局にやって来た。実験を行うのは、薬剤師の甥にあたる Cashellである。薬局には Shaynorという薬剤師が雇われている。

『私』が実験の開始を待つ間に、若い女が来て Shaynorを外に連れ出した。St. Agnes教会あたりまで行くという。しばらくして、Shaynorは一人で戻ってきた。彼は咳と同時に喀血する。

『私』は自分で混ぜ合わせて飲んでいた怪しげなアルコール飲料を Shaynorにもすすめる。2杯目の酔いが回ったのか、Shaynorは意識を失ってしまう。『私』はCashellから彼が結核で命は長くないこと、思いを寄せる例の女の名が Fanny Brandであることを知ると、何かの繋がりが頭に浮かぶ。

予定していた Pooleからの電信が来ないので、Cashellは送信を試みる。打電キーを叩くたびに電気がスパークし、それをCashellは「解き放たれ宙を駆けるパワー」だと称える。

しかし待っても返信は届かない。『私』は機械のそばを離れて Shaynorの様子を見に行った。すると驚いたことに、彼はキーツの "St Agnes' Eve" そっくりの詩の断片を、紙に書き付け始めた。『私』には彼がキーツを読んでいるとは思えない。

同じ細菌、結核の「周波数」に加えて、キーツの愛した Fanny Brawneとそっくりの名前、そうして同じ薬剤師という職業が人間に共通の無意識とともに働いて、この一致を生み出したのだ――『私』はそう考える。

突然我に返ったShaynorは、何も覚えていない。彼はキーツの詩を読んだことがなく、この詩人の名さえ知らなかった。

無線機の方では、遙か遠くで交信しようとしている信号が入ってきていた。互いに機械の調子が悪く、送信はできるが正常に受信できないらしい。そうしてついに実験相手からの送信があったが、『私』は実験への興味を失っていた。

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Kiplingはこの作品を書く数年前から無線電信(モールス信号によるもの)に大きな興味を持つようになっていたらしい。目に見えない信号が、宙を飛んで相手に言葉を伝える。Kiplingはそこに何か得体の知れないパワーを感じていたのだろう。

発信された電気信号が時空に作用し、19世紀の詩人キーツの思考が時間を超えて、20世紀初めの薬剤師の頭に受信された。そのように読める、科学ファンタジー的な作品である。

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'They' (1904)


この短編のタイトルにはもとから ' ' がついている。「子供たち」を指すのだが・・・。

まだ自動車が珍しかった頃のイギリス。話し手の男性は、ドライブ中に道に迷い、美しいお屋敷の庭園に入り込んでしまう。屋敷の窓にも木々の間にも、子供の姿が見えた。屋敷から出てきたのは盲目の女主人だった。

彼は誤って侵入したことを詫びるのだが、彼女はかえって喜び、子供たちに自動車の走るところを見せてやってほしいと言う。子供たちは恥ずかしがって出ては来なかったが、彼は石畳の道をゆっくり往復してやる。彼らの喜ぶ声が聞こえた。そして、分かれ道まで執事に同乗してもらい、彼は家に帰った。

夏、彼はまたあの屋敷に行こうとドライブに出かけた。よく思い出せなかったが、まるで自動車が道を知っているかのように、例の村にたどり着いた。ところが、そこで故障してしまう。修理を始めると、森の中から、子供の声が聞こえてくる。工具に興味をひかれて近寄ってきたのだろう。ちょうどその時、盲目の女主人が現れる。

修理が終わった頃、近所の子供が病気で死にそうなことを知り、彼は医者を迎えに自動車を走らせる。診察が終わると、薬や付き添い看護婦を捜し求めて走り回り、大騒動の午後が終わった。

やがて秋になり、彼はまた屋敷を訪れた。天気は急変し、暗く雨が降ってきた。盲目の女主人は彼を案内して屋敷の中を見せる。庭だけでなく、屋内も子供のために作られたかのようだ。子供部屋にはおもちゃが置いてある。子供たちがそっと駆け回る足音、くすくす笑いが聞こえる。大人を出し抜いて、どこかで驚かそうというのだろう。

暖炉の灯りの中、お茶が出された。子供はすぐ後ろにある衝立の裏に隠れているらしい。子供を誘い出すため、彼は無視していることにした。やがて、後ろに出した彼の手に子供の手が触れた。さあ、振り向いてやろう。子供は彼の手のひらにキスした。だが、その時、彼にはわかった。

「子供たち」は幽霊だった。子供のいない女主人が子供のいるふりをしているうちに、現れるようになったのだという。彼は二度とこの家を訪れないことにする。

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美しくて、哀しくて、日本人好みのストーリー。盲目の女主人はテレパシーのようなものを持っているようで、すこしSFっぽいところもある。
Kipling 自身が子供を失ったことが微妙に反映した作品。

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