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Life's Handicap (1891)

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ストーリー紹介の本文は Life's Handicap の目次順に並んでいます。
タイトルにつけた
(西暦)は初出年を表します。
西暦のついていないものは、Life's Handicap 出版時 (1891) に初めて登場した作品です。

Amir's Homily, The
At the End of the Passage
Bertran and Bimi
Bubbling Well Road
'The City of Dreadful Night'
Courting of Dinah Shadd, The
Dream of Duncan Parrenness, The
Finances of the Gods, The
Georgie Porgie
Head of the District, The
Incarnation of Krishna Mulvaney, The
Jews in Shushan
Lang Men o'Larut, The
L'Envoi (poem)
Limitations of Pambe' Serang, The
Little Tobrah
Man Who Was, The
Mark of the Beast, The
Moti Guj -- Mutineer
Mutiny of the Mavericks, The
Naboth
Namgay Doola
On Greenhow Hill
Reingelder and the German Flag
Return of Imray, The
Through the Fire
Wandering Jew, The
Without Benefit of Clergy



The Incarnation of Krishna Mulvaney (1889)


まずは『兵隊トリオ』の紹介と彼らの置かれた状況の説明から。アイルランド出身の古参兵 Mulvaney は親分格で機知に富む。おっとりとした大男 Learoyd はヨークシャー出身で、我慢強いため喧嘩に強い。小柄な Ortheris は目端の利くコックニー(ロンドン下町っ子)である。

『私』の友人である3人が所属する連隊は、北方辺境、西方国境、上ビルマでの小規模な戦いの後、ここ2年のあいだ全く動きがない。毎日同じ退屈な兵営生活が続いていた。

ある時、3人は酒代に困っていた。Ortheris は金にしようと『一般民』の犬を盗んだのがばれて営倉入りとなるが、模範兵であったので比較的軽い罰を受けただけで済んだ。(Mulvaney の躾のおかげ。)

その後、Mulvaney が酒代をひねり出すために1日休暇を取ってクジャクを撃ちに出かけた。手ぶらで帰ってきた彼は、Learoyd を『勝負』に誘う。相手は鉄道建設現場で監督をしている Dearsley(白人)。彼が毎月給料日に2千人のインド人労働者に「豪華な輿が当たる」くじを買わせ給料をピンハネしていたことを、Mulvaney は偶然知ったのだった。その輿を奪えば不正はなくなり、それを売ればビールが飲める。

翌日、彼らは3人で工事現場に出かけた。Learoyd は条件どおりにボクシングで対決し、10ラウンド目で Dearsley を倒す。彼らは、クッションに隠された Dearsley の金もろとも、輿を持ち帰った。

やがて軍の給料日が来た。その日、Mulvaney が輿とともに姿を消した。「鉄道工事現場の友人に会いに行く」ために3日間の休暇を取ってあった。Ortheris によれば、彼は輿の担ぎ手を6人雇っていた。おそらく、Dearsley をからかいに行ったのだろう。

Ortheris と Learoyd は工事現場に出向いてそのことを確かめるが、Mulvaney の行方はわからない。7日目になった。脱走の疑いがかかっても不思議ではない。しかし連隊長は Mulvaney を信じ、戻ってきて納得のいく説明がなされれば許すつもりでいる。彼は新兵教育に欠かせぬ人材でもあった。

その夜、ついに Mulvaney が帰ってきた。裸足に、輿の内装に使われていたピンクの絹地をまとっていた。彼が語ったところによると、この行方不明事件は Dearsley のリベンジだった。

Dearsley は彼にビールを飲ませて眠らせ、輿ごとベナレス行きの資材運搬列車に乗せた。輿はベナレスの近くの村に放置された。輿がたいそう豪華だったので、地元の人々は有力な王妃が乗っていると考え、ベナレスの寺院に運び込んだ。

寺の暗い堂内では、高貴な身分の女たちが男子の誕生を熱狂的に祈りはじめた。ここからどうやって抜け出すか。彼は、輿の内張布に施された刺繍を見て、ヒンドゥーの神クリシュナになりすますことにした。この神様のあご、ぎょろ目、口ひげには、彼とどこか通じるものがあった。彼はピンクの絹布を剥がして身にまとった。

その姿で現れた彼を、女たちは神だと思い、涙を流して有り難がる。神様のフリをしてその前を通り抜けて廊下に出た彼は、僧をつかまえて出口を聞き出し、さらに434ルピーと金の首飾りをせしめて帰ってきたのだった。

Mulvaney は連隊長に「日射病にやられて、村人の家で人事不省で眠っていた」と報告した。事件は解決、彼は翌日から新兵教育にあたるのだった。

――高貴な女性は人に顔を見せない。とうぜん、誰もその輿の中を見ることはできない。しかし、絢爛豪華な女性用お乗り物の中身が「いかついおっさん」だとは、インド人でなくても、だれも思わないだろう。

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The Courting of Dinah Shadd (1890)


インドの英陸軍を二手に分けて、3万人が参加する大規模な模擬戦が行われた。特派員である『私』はこの演習を取材し、野営地で将校たちと夕食を共にする。グループごとに食後の娯楽に興じる将兵たち。

『私』はMulvaneyを見つけて、一緒に焚き火にあたる。彼は自分の情けない境遇を嘆く。連隊の人員がすべて入れ替わるのを見てきたほどの古参兵で、すでに昇進の見込みもなく、飲んだくれで、自分の子供ほどの若い上官がお情けで大目に見てくれている最低の男だ、と。そうして、やがて妻Dinahと結婚したときのことを話し始める。

若い頃、Mulvaneyはとてももてる男で、将来性もあった。伍長だった彼は、ある時下士官Shaddの娘Dinahに一目惚れし、ついにはライバルを殴り倒して、彼女を勝ち取る。彼女の両親も、結婚を認めてくれた。

しかし、その夜の帰り道、酔ったところをJudy Sheehyに誘われて、彼女の家に入ってしまう。そうして、彼女と戯れているところに母親が帰ってくる。Judyは彼が自分と結婚の約束をしたと言う。Mulvaneyは罠にはめられたのだ。

彼の様子を見て声をかけたある下士官は、彼にアドバイスする。「どんな嘘をついてでもSheehy母娘から逃れよ。世間に非難されても、婚約者に去られても、Judy Sheehyのような性格の女と結婚して一生苦労するよりはマシだ」と。

翌日、MulvaneyがDinahの家を訪ねているとき、Sheehy母娘がやって来た。彼がJudyと結婚の約束などしていないと言い張ると、母親は彼に呪いをかける。苦しみ、哀しみ、不幸な人生を送り、惨めに死ぬようにと。

それを家の中で聞いていたDinahが、外に出てくる。「その半分を私が引き受けましょう。」

するとSheehy夫人は彼女にも呪いをかける。一兵卒の妻として苦労をするよう、子供は聖職者の祈りなしで埋葬され、一生子供なしであるよう。

自分たちはその時はすぐに忘れてしまったのだが、あとになってすべての呪いが現実となった、とMulvaneyは言う。『私』には口にすべき言葉がない。

焚き火を囲んで騒ぐグループから、人気者Ortherisが陽気に歌う声が聞こえてきた。悩みなどないかのように。しかしMulvaneyは『私』に言う。「あいつがホームシックで変になったときのこと、覚えとりますか?」

――コミカルで老獪なおっさんMulvaneyの、普段は見えないもう半分側。おそらく、彼の人生は呪いなどなくても同じだっただろう。そして、他のほとんどの同僚たちも。それを『呪い』だと思うのは、Mulvaneyの自責の念。その哀しさが、しみじみと心を打つ。
Ortherisのホームシックについては Plain Tales from the Hills の 'The Madness of Private Ortheris' に書かれている。



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On Greenhow Hill (1890)


Mulvaneyたちの部隊は、別働隊を待ちながらヒマラヤの麓で道路建設に従事していた。インド人部隊から脱走兵が出た。彼は夜になるとあたりをうろつき、仲間を誘うので、迷惑だった。Ortherisは上官から脱走兵の射殺を許される。

翌日、道路建設はインド人と交代で、彼らは自由時間を得る。Mulvaneyといっしょに出かけたOrtherisは、脱走兵が通るはずの場所を見定めて、狙撃の機会を待つ。目標まで600ヤード。彼は射撃の名手で、寝る前には愛する自分のライフルにキスをするという噂があった。

そこへLearoydがやってきた。荒涼とした景色は彼に故郷ヨークシャーの湿地を思い出させる。「脱走兵にも事情があるのだろう、女だろうか・・・。」 そう言った彼は、Mulvaneyに促されて想い出を語る。

ヨークシャーにGreenhow Hillという山がある。そのあたりに住む人の多くは、ほとんどが石炭と鉛の鉱山で働いている。Learoydはその地の生まれではなく、家庭の事情で移ってきて、最初は荒くれ者の仲間になっていた。

ある夜酔って帰る途中によじ登った石垣がくずれて、彼は石ごと溝に落ちた。腕を骨折し頭を打って意識不明となり、目覚めるとJesse Roantreeという男の家にいた。Jesseは彼を見つけて家まで運び医者を呼んでくれ、その娘 'Lizaが看護してくれた。

'Lizaは彼に歌を教え、彼はJesseからチェロを教わることも約束する。Jesseは教会の音楽活動のリーダーだった。

Learoydは'Lizaに心惹かれるが、ライバルが現れた。Greenhowにやってきた原始メソジスト派の説教師だった。誰にも評判の悪い自分の犬に彼が好意を示したので、Learoydは彼を悪く思ってはいなかった。しかし同時に、嫉妬から殺意を感じる瞬間があった。

Learoydは以前の仲間と縁を切り、教会の活動に参加するようになった。しかし、上品ぶった人々の自分に対する冷たさに疎外感を感じていた。彼らは若い者の素行の悪さをあげつらっては、決まったように「あげくには出ていって兵隊になった」と言うのだった。(女王のために働くのがなぜそう言われなければならないのか、MulvaneyとOrtherisも体験から大いに疑問に思っている。)

3ヶ月ほど経って、体の弱かった'Lizaが病に倒れた。彼女が少し快復する頃、説教師は鉱山の内部を見てみたいと言った。相手を深い縦穴に突き落としたい衝動にかられながら、Learoydはロウソクを頼りに暗闇の中を案内した。説教師は疑いも恐れも見せない。Learoydには何も出来なかった。説教師は、'Lizaの命があと数ヶ月であることを話す。

Jesseは娘を連れて街に引っ越した。説教師は転任していった。Learoydも仕事を辞めて街へ出たが、Jesseは'Lizaに会わせてくれない。失意の彼は新兵募集の係官に出くわし、その場で入隊手続きをした。

そうして、もう一度'Lizaの家に行った。彼女が声を聞きつけて、部屋に通すよう父親に言った。彼女はLearoydを思う気持ちを口にして、彼の首に腕を回し、そこで意識を失う。それ以来、係官の言ったように、彼は彼女のことは忘れている。

そのとき、Ortherisが膝をついて銃を構えた。距離600ヤード、200ヤード下の谷で、脱走兵が倒れて動かなくなった。完成した作品を眺める芸術家のほほえみを浮かべて、Ortherisは谷のむこうを見つめていた。

――「ろくでなしは兵隊にでもなるしかない」。だが、その「ろくでなし」たちは誰のため何のために戦うのだろう。

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The Man Who Was (1890)


Dirkovitch というあるコサック連隊(ロシア)の将校がインドにやってきた。政府が「丁重に接するように」との通達を出したので、彼は各地を自由に見て回っていた。

ある時、彼はペシャワールに駐屯する騎兵連隊 White Hussars の客となっていた。連隊ではアフガン人によるカービン銃泥棒騒ぎが一段落し、ポロ試合の後の交歓会が行われた。その将校食堂に、銃を盗もうとした疑いで、あやしい男が連れてこられる。

よく見るとその男は白人で、精神に異常をきたしているようであった。しかし、かつて壁に掛かっていた軍楽隊の馬の絵のことを尋ねるところをみると、 White Hussars の将校食堂を知っているらしい。その馬は連隊のマスコットだったのだ。

確認のために「乾杯」の音頭をとると、男は昔行われていた連隊独自の作法でそれに応じた。その男がかつてこの連隊の将校であったことは間違いない。だが、その身体には鞭打ちによる傷跡があった。

Dirkovitch がロシア語で聞き出したところでは、その男はシベリアから逃げてきた。戦後の捕虜交換の対象からもれてよそに送られたのだ。コサックの大佐を侮辱して謝罪しなかったために起こった『事故』だった、とDirkovitch は言う。

名簿を調べると、30年前の1854年に「行方不明」となった中尉だった。自分の巣に戻る鳩のように、戻ってきたのだった。3日後に男は死に、連隊は葬儀を執り行う。

Dirkovitch は、しきたり通りに歓待の姿勢をくずさない将校2人に見送られて、夜汽車で出発する。

――ロウソクの光で食堂の天井には巨大な棺形の影ができる。彼らはそれを誇りにさえ思っている。だが、Dirkovitch が言うように、彼らはみんなそこへ行ってしまうのだ。なお、インドを押さえるイギリスにとって、ロシアは宿敵だった。

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The Head of the District (1890)


アフガニスタン辺境地方の長官が、3年の病ののちに死んだ。部下の Tallantire に後を託し、地方の部族の実力者には彼に従うよう言い残した。長官は彼らに敬愛され、Tallantire も彼らの言語と文化を解していた。

インドの支配はインド人に、という総督の理想的方針のもと、政府は後任の長官に Grish Chunder De というベンガル人を任命した。オックスフォード大学出のインテリだった。それを知らされた地方のインド人首長たちは反発する。トラブルが予測された。

アフガン人は南部のベンガル人を軽蔑していた。ある部族は、この人事を自分たちへの侮辱と見なし、また相手に力はないと見て、反乱を起こすことを決めた。その背後には、部族内の勢力争いもあった。

新長官の学歴も、現地では何の力にもならなかった。人々は失望し、あるいはあからさまに軽蔑的態度を取った。

そこへ、襲撃事件の知らせが入った。反乱の前触れに違いない。すると彼は「自分はまだ正式に着任してはいない」と逃げる。そうして、救援と転任願いの電報原稿を書きまくるのだが、それが送信されることはなかった。

Tallantire は Grish Chunder De を当てにはせず、自分で馬を飛ばして砦に走った。砦の守備隊は病気で弱っていたが、それにもかかわらずアフガンの反乱勢力をうち負かす。

Grish Chunder De は病気を理由に、出身地へ配属してもらった。

反乱を主張した人物は、部族の者に殺される。若い者をそそのかして反乱を起こしたとして、その首は刎ねられ、部族の新しいリーダーがそれを Tallantire のところに持ってきた。彼は、Tallantire が長官であればいいと言うのだった。

――彼らはついでに、たまたま通りかかった Grish Chunder De の兄弟の首を刎ねていた。今度の「不幸の元凶」 Grish Chunder De と間違われたのだ。
イギリス人の支配になら(たぶん)諦めて従うが・・・。


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Without Benefit of Clergy (1890)


John Holden はイギリス人仲間には秘密にして、家庭を持っていた。『妻』の Ameera は16歳のイスラム教徒で、2年前に彼がその母親から金で買い、母親ともども郊外の借家に住まわせるようにしていた。

やがて Ameera は男の子を産んだ。静かな生活が乱されることを望まなかった Holden も、我が子をかわいがり、Ameera をさらに愛おしく感じるようになる。しかしその幸せの絶頂のさなか、 Tota と名付けた子供は、熱病であっけなく死んでしまう。

Ameera は子供を死なせた責任を感じて自分を責める。彼女をかばうHoldenは、共通の哀しみから一つの新しい絆が生まれたように感じた。

その年、コレラが流行り、イナゴの被害が広がり、不作となった。旱魃がやってきた。コレラは猛威をふるい、イギリス人たちは妻を安全な北の山間部に移動させた。しかしAmeeraは彼のそばから離れようとしなかった。

彼女もコレラにかかり、待ち望んだ雨がやっと降り始めた頃、死んでしまう。降り続く豪雨の中、Holdenに死んだ者の後任となるよう、転任の命令が来た。Ameeraと過ごした家を見に行った彼は、家主から、家が取り壊されることを聞かされる。

――Kiplingのインドものの中でも名高い一編。属する世界が異なり、社会に認められることのない彼らの幸福。もしAmeeraが死ななかったとしても、この先何かの形で終末は必ずやってきただろう。

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At the End of the Passage (1890)


6月の炎暑の中、インドの僻地で働く4人の若いイギリス人がホイストに興じていた。彼らは、毎日曜日に彼らの一人である副技師の Hummil の家に集まって、週遅れの雑誌や本国から送られた切り抜き記事を読み、仕事の話をし、夕食をすませて帰途につくのが常だった。

彼らはそれぞれが『孤独』だった。僻地には他に白人はいなかった。気候は厳しく、常に過労状態にあった。殺される危険や、手の施しようのないコレラの流行など、死んだ同僚が『幸せ』に感じられるほどの環境で仕事を続けていたのだ。

Hummil は不眠に悩まされていると言う。その日は曲がりなりにも音の出る簡易ピアノで彼らは楽しんだのだが、Hummil の様子は普通ではなかった。

二人は帰っていき、医師の Spurstow は Hummil と共に残った。彼は眠れない Hummil にモルヒネの注射をしてやった。Hummil は何かにおびえていた。

翌日の昼頃になって、Hummil は目を覚ました。気分は良くなったという。休暇を取るように勧める Spurstow に、彼は後任者の家庭を気遣っていることを理由に挙げ、涼しくなるまで何とかなるからと、診断書を書く申し出を断る。

Spurstow が帰ったあと、Hummil は幻覚を見た。家の中に『自分』が立っているのが見えた。夕方仕事から帰ってくると、『自分』がテーブルにすわっていた。

次の日曜日、3人の男たちが Spurstow の遺体を見つける。少なくとも死後3時間は経っており、目を見開いた顔には極度の恐怖が現れていた。召使いによると、彼はやはり眠っていなかったらしい。彼はベッドに拍車を置いていた。「つかまったら死んでしまう」ので眠るまいとしていたのだと、召使いは言う。

Spurstow は彼の瞳に何かを見つけ、写真を撮る。しかし、現像したフィルムは粉々にしてしまった。

――「仕事に戻れよ。・・・仕事をしていれば、正気が保てる」と Spurstow は言うが、その仕事こそが、過労を、そしてその結果として精神に異常をもたらすのだ。それでも仕事をするしかない。ハードボイルドなインド。

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The Mutiny of the Mavericks (1891)


アメリカの諜報組織が、イギリスのインド支配を弱体化させるために、アイルランド移民2世のMulcahyという男を送り込んだ。アイルランド人の反イギリス感情を利用して、陸軍に反乱を起こさせようという計画である。

Mulcahyは、インドに駐留するアイルランド人歩兵連隊『Mavericks』の伍長となった。6ヶ月の間、組織から送られる金でふんだんに酒を振る舞い、彼は人気を得た。そして頃合いを見て、おもだったメンバーに反乱を起こすよう誘いかける。

「自分たちだけで相談したい」というリーダー格の言葉に、成功を確信するMulcahy。しかし彼らに反乱の意志はなかった。彼らは栄誉ある連隊にプライドを持ち、また、自分たちがMulcahyに利用されるだけであることを見抜いていた。

そこで、彼らはうまい計画を考え、実行する。Mulcahyの話に乗ったフリをして、ビールだけ頂戴しようというのである。「暑くて反乱などできない」夏の間、彼らは飲み物には事欠かなかった。酔って態度の悪くなる者が続出したが、Mulcahyはそれを反乱につながる反イギリス感情の表れと信じていた。

そのうち、Mulcahyの出張中に、辺境でアフガンとの衝突が起こる。連隊の派遣が決定され、兵隊たちは興奮し、準備のため連隊の騒ぎは最高潮に達する。そこに帰ってきたMulcahyは、騒動を反乱の前兆と勘違いし、大いに喜ぶ。

だが、真相を知った彼は愕然とする。自分が戦地に赴く可能性は全く考えていなかったのだ。だがもはや逃れられず、兵卒のリーダー格2人からは戦場の恐怖を誇張して聞かされ、神経が参ってしまう。

彼らは連隊に屈辱をもたらそうとしたMulcahyを許そうとはしなかった。彼らと戦うか、敵と戦うか、どちらにしても死しかない。彼は死への恐怖から戦場で狂い、アフガン兵に殺される。

ビールの源がなくなった。彼らは、戦いが終わったらMulcahyを送り込んだ組織からさらに続けて酒代を頂戴する計画をたてる。それを励みにした彼らの働きぶりは凄まじく、アフガン人は降伏し、予想外の早い決着をもたらした。

だが、彼らの計画は失敗した。送金を依頼するために彼らがでっち上げた手紙には連隊長以下将校たちのニセ署名がなされていたのだが、戦死を知らせる本物の連隊長からの手紙と同時に届いてしまったのだ。

――冗談なのか真面目なのか、ブラックユーモアめいた一品。
なお、この連隊『Mavericks』は、Kimの父親が所属していた連隊として、のちにKimに登場する。「所有者のない、焼印を押されていない牛」を意味する名前。連隊旗は『赤牛』じるし。


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The Mark of the Beast (1890)


大晦日の宴会が終わり、クラブから帰る途中のこと。Fleeteという男が酔いにまかせてヒンドゥー寺院に上がり込み、信者たちが見ているところでハヌマーン神像を汚した。『私』と警官Stricklandは彼をStricklandの家まで連れ帰るが、彼は報復の呪いをかけられていた。

翌日目覚めたFleeteの胸には奇妙なしるしが現れていた。彼は生の肉を食べたがり、寒い屋外で土にまみれ、灯りを嫌う。馬は彼を異常に恐れる。やがて彼は言葉を話せなくなり、狼のうなり声を発するようになる。

Stricklandと『私』は狼になりきった彼を縛り上げた。やってきた医師のDumoiseは、狂犬病と診断を下し、帰っていった。

Stricklandと『私』は呪いをかけた者を捕らえ、拷問にかけて、悪霊を取り去るよう強要する。それは成功し、Fleeteは人間に戻って眠りに落ちる。胸のしるしも消えてしまう。

昏睡から目覚めた本人は何が起こったのか覚えておらず、ヒンドゥー寺院でも白人が神像を汚したという事件は起こっていないことになっていた。

――かなりえぐいホラーもの。インドの事情に詳しいStricklandと医師Dumoiseは、Plain Tales from the Hills の作品に登場したキャラクター。

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The Return of Imray (1891)


ある日、Imrayが忽然と姿を消した。捜索の結果もむなしく、原因や動機の手がかりさえなかった。やがて人々も事件を忘れ、彼が借りていた家には警官Stricklandが入った。

Stricklandはインドの裏社会にまで通じている人物で、またその飼い犬も『使い魔』だと現地の人々から恐れられていた。犬は人間同様に自室を1つ与えられていた。

彼が借りた家は8部屋ある藁葺き屋根のバンガローで、屋根の下には天井の役割をするシーリングクロスが張ってあり、屋根裏の空間を隠している。やがて夏の酷暑が終わって雨期に入った。

この家に泊めてもらった『私』は、Stricklandの飼い犬がベランダから決して家の中に入ってこないことに気づいた。しかも、夜になると何者かの気配が家の中を移動し、自分の名前を呼んでいるように感じられる。Stricklandによれば、この家に引っ越して以来ずっとそうなのだという。

話の途中で、Stricklandはシーリングクロスと壁の間に蛇がぶら下がっているのを見、それを退治しようとシーリングクロスを破って天井裏を覗く。そして、太い梁の上に何かがいるのを見つけた。頑丈な釣り竿でつつくと、それはシーリングクロスの上に落ちた。

シーリングクロスはその重みで壁からはずれて裂けた。落ちてきたのは、Imrayの遺体だった。喉を切り裂かれていた。

犯人はImrayのインド人召使いだった。Imrayが彼の子供をほめて頭をなでたことが原因だった。それは呪いをかけることを意味し、現実に子供が10日後に熱病で死んだので、召使いは復讐のためにImrayを殺し、天井裏に隠したのだ。

地主階級出身の召使いは、捕らえられることを恥として、毒蛇に足を噛ませて死ぬ。Stricklandの犬は、家に入るようになった。

――文化に関する無知と熱病の季節とがたまたま重なったために起こった事件。やっぱりこわい。
シーリングクロスの天井裏で小動物が死んでその腐敗臭に悩まされたというKipling自身の体験がこの短編のヒントになったと、どこかで読んだ記憶がある。


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Namgay Doola (1891)


『私』は、ヒマラヤの極小王国を訪ね、王と会見した。王の悩みはNamgay Doolaという男のことで、よそ者だった彼に土地を与えたのだが、税を納めないばかりか、反乱を企てているという。

しかし同時に、彼は王国にとって欠かせない人物でもあった。切り出した材木が川につまって流れなくなったとき、彼ほど勇敢に手際よく処理できる者はいなかったのだ。

Namgay Doolaが他人の牛の尻尾を切り取るという事件が起こり、王もついに彼を放置しておくことはできなくなった。だが、『私』は解決を任せて欲しいと王に申し出る。

当人は知らなかったが、Namgay Doolsはチベット人ではなく、東インド会社軍兵士の子供だったことが『私』にはわかる。わずかな発音の特徴から、彼の父親はアイルランド人だったらしい。

『私』は王にこう進言する。彼を農民とせず、国の護りの長とせよ。彼は税を納める部族の出身ではないのだから。

王はそれを受け入れ、事件は解決する。

――Namgay Doolaが父親から受け継いだものは、赤い上着の記憶、「気をつけ!」の号令と銃、姿を変えてはいるがカトリックの礼拝、そして、荒ぶるアイルランド人気質。
こうして残されたイギリス人の子供は多かったことだろう。


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The Lang Men o'Larut (1889)


タイトルは 'The Long Men of Larut' のスコットランド訛り。スコットランド人機関長が語った暇つぶしのホラ話、文字通りの「tall tale」。

ペナンのあたりにある Larut というところには鉱山があり、5人の白人が駐在していた。そのうち3人は人並みはずれて背が高く、3人ともスコットランド出身だった。

彼らのうち普通の背丈の男に商用があって、背の高いアメリカ人がやってきた。彼は、この島で自分が誰よりも背が高い、財産をかけてもよいと言う。そこで、3人の大男のうちいちばん背の低い男が呼ばれた。

しかしアメリカ人は「自分の方が背が高い (I'm longer.)」と言ったので、次の大男が呼ばれた。同じように、いちばんの大男も呼ばれた。

アメリカ人は、名刺を出して言った。自分の名は「Esdras B. Longer」で、背比べで3インチでも負けたらこの名刺を出して逃げようと考えていた。しかし、「話がフィートやヤードやマイルとなれば」大盤振る舞いをせずに逃げる自分ではない、と、盛大に酒盛りを始めた。

――ホラ話なのはわかるのだが、最初に背の高さが数字できちんと書いてあるのに途中で桁外れな大きさになってしまうと・・・。
この話が笑えた御方様、いらっしゃいましたらご連絡ください。


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Bertran and Bimi (1891)


ドイツ人Hans Breitmannが船上で『私』語った話。彼は世界中を回ってランと野生動物などを採集販売する業者で、そのときも甲板の檻の中では彼が捕らえたオランウータンが暴れていた。

彼がかつてニューギニアでサルを集めていたとき、Bartranというフランス人と知り合った。BartranはBimiという名前のオスのオランウータンを飼っていた。12年間一緒に生活しているうちに、Bimiは人間と変わらないまでになっていた。人の話を理解し、タバコや酒を飲むこともする。そして、Bartranを独占したがった。

BartranはHansに結婚の意図をうち明ける。Hansは結婚する前にオランウータンを殺せと忠告する。さもないと妻の身が危ない、と。それを聞いていたBimiは、首を絞める真似をしてHansを脅した。

Bartranは全く意に介さず、若い妻と生活し始めた。Bimiが彼女に従順なふりをしているのが、Hansにはわかった。あるとき、Bartranは妻をBimiと一緒に家に残して外出してきたという。

Hansの心配した通り、Bartranの妻は細切れにされて死んでいた。Bimiは藁葺き屋根を破って部屋に侵入したのだった。

Bartranは逃走したオランウータンを呼び戻し、自分より何倍も力のあるこの相手を素手で殺した。しかしまもなく彼自身もその場で死んでしまう。

――寝苦しい熱帯の夜、少しでも涼しい寝場所を求めて甲板に寝ころび、眠る前に一語り。聞いた『私』は、涼しくなるというより、気持ち悪くならなかっただろうか。

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Reingelder and the German Flag (1889)


ドイツ人ラン採集業者Hans Breitmannが語った話。

ウルグアイに行ったときのこと。一緒にいたReingelderという男はサンゴ蛇を集めており、その中でも特に German Flag と呼ばれる赤・黒・白の三色の蛇を欲しがっていた。

ある日、彼らのもとへ現地の女性がビンに入れたGerman Flagを持ってきた。「噛む」という彼女の言葉にも、「毒蛇かもしれない」というHansの忠告にも耳を貸さず、Reingelderは蛇を手に這わせた。権威ある爬虫類の書物に「毒はない」と書いてある、と。

しかし彼はGerman Flagに噛まれ、毒で死んでしまう。Hansは彼を埋葬して、蛇は生きたまま「酢漬け」にした。

――朝からビールは体に悪いと言われれば、死ぬならとっくに100回も死んでいるぜ、とうそぶく無頼の採集業者。日本にも来たことがあるらしい。
Hans Breitmannは'Bertran and Bimi'にも登場する。


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The Wandering Jew (1889)


「東回りに地球を一周する者は1日を得る。」

ある男が、伯父の莫大な遺産を相続した。しかし伯父の幽霊が現れ、人生は短く楽しみは長く続かないことをしじゅう大声で言い立てる。彼は死の恐怖に取り憑かれた。

彼は誰かに聞いた言葉を思いだした。そこで、全財産をソブリン金貨に換え、彼は東回りで世界一周旅行をすることにした。2ヶ月で一周して1日得られるとして、それを30年続ければ、180日得られることになる。

鉄道と船を乗り継ぎ、彼は世界1週旅行を繰り返した。始めたとき、彼は35歳だった。だが20回目の旅をする頃、彼の『秘密』がばれた。

親戚の1人は彼の財産を自分のものにしたいと思った。派遣された医者はマドラスで男をつかまえ、『旅行よりもよい方法』を実行させることに成功した。それ以来、男は天井からつり下げた椅子に座っている。そうすれば地球は彼と関係なく勝手に回っているのだから、彼は『永遠』に・・・。

――何とかして長く生きていたいという多くの人が持つ望みが、「莫大な財産を失いたくない」という気持ちから、強迫観念となった。それは彼を狂わせ、結局は財産をも失わせてしまった。考えさせられる話。

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Through the Fire (1888)


北インド、ヒマラヤの村に休暇でやってきたセポイ(英インド陸軍のインド人兵)Suket Singhと炭焼きの妻Athiraが恋に落ちる。Athiraは自分を虐待する夫を捨て、駐屯地に戻るSuket Singhについていく。彼の妻は子供を連れて出ていく。

やがてAthiraを連れ戻すべく、彼女の兄弟がやってくる。彼女が帰らないと言うと、呪術師が呪いをかけると予告して帰っていった。それを聞いた彼女は翌日から健康を害し、弱っていく。

2ヶ月後、兄弟が再びやってきて、戻ってくるよう大声をあげる。それを聞いた二人は、村に戻ることにした。

二人は炭焼きのために積み上げてあった木材の山に上り、火をつけて、銃で自殺する。

――妻は「所有物」の一つであり、しかもそれを失ったことには関心を示さずにダメになった木炭4ルピー分の苦情を言う夫。それに対して、軍人としての誇りを持ちながらも愛を全うする恋人。我々の多くが後者の方がいいと思うだろうけれど、それは「時代と文化」と無関係ではないだろう。

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The Finances of the Gods


序文に登場した老僧Gobindが、捧げ物を持ってきた貧しい裸の子供にお話を聞かせる。

昔、40年の間敬虔にシヴァ神を信仰してきた男がいたが、ずっと貧しい物乞いのままだった。シヴァ神と妻パールバーティーは、ある寺院でこの男を見かけた。

パールバーティーは「崇拝者をないがしろにしておいては、人にどう思われようか」と言う。そこでシヴァは、その寺院の祭神である息子ガネーシャに、男に何かしてやるよう命じた。ガネーシャは、3日後にその男に10万ルピーを与えようと答えた。

それをある金貸しが聞いていて、その金を自分のものにしようと考えた。そこで、何も知らない男に「3日分の稼ぎとして5ルピーをやろう」ともちかけた。男は取り合わなかったが、男の妻は金をもらえと言う。

男がうんと言わないので、金貸しは次第に差し出す金額をつり上げ、ついに5万ルピーで男の妻が同意した。その金はただちに銀で支払われた。

さて3日後、金貸しは10万ルピーを手に入れようと寺院で神々の様子をうかがっていた。すると石の床が割れて、彼のかかとをはさんだ。シヴァに答えるガネーシャの声が聞こえた。「半分はすでに支払われ、あと半分を支払う者はここに捕らえてある」と。

子供の母親が探しに来た。老僧Gobindは自分の着ていたキルトを引き裂いて、子供の肩にかけて帰らせた。

――僧の衣にくるまっている子供は可愛らしいが、『私』は優しい言葉をかけるのを思いとどまり、かわりに憎まれ口をたたく。そうでないと、もしこの子供がその後病気などになったら、自分が『邪な目』で見たせいにされてしまうからだ。

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The Amir's Homily


アフガンの王Abdur Rahmanは御しがたいアフガン人を[死の恐怖]で支配し、どの首長や長官よりも恐れられていた。彼は王位につく前には多くの苦労を経験し、彼自身が追われる立場にあったこともあるので、あらゆる階級の事情に通じていた。

ある時、王が民を裁いているとき、みすぼらしい男が3ルピー盗んだ咎で連れてこられた。体つきはがっしりしており、なぜ働かなかったのかとの問いに「仕事がなく、餓えていた」と答えた。王は「餓えは理由ではない、なぜなら人は誰でも仕事を見つけ食い扶持を得ることができるからだ」と言って、自分が追われていたときの経験を語る。

所持金がつきて飢えに耐えかね、王は絹の上着をかたに金を借りた。その2ルピー8アンナがつきたとき、金貸しの手代がさらに2ルピー貸そうと申し出た。しかし王はそれを断り、仕事を見つけて欲しいと頼んだ。王は高貴な身分でありながら、1年4ヶ月の間、1日4アンナで労働者として働いた。

それなのに、この男は働かずに盗んだ。王は男に死刑の判決を下した。

――冒頭のアフガン人気質の説明には、当時のイギリス人の実感がこもっているようで、興味深い。

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Jews in Shushan (1887)


北インド、Shushanの街の人口は1万人ほど、その街に8人のユダヤ人がいた。彼らは町はずれの荒れ果てた土地にある1軒の家に住んでいた。

『私』の知っているEphraimは集金人をしており、仲間が10人に増えて自分たちのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)を持つことを待ち望んでいる。彼はそこの司祭になるつもりでいる。

夏が来て、神に護られているから大丈夫と信じていた彼らにも、熱病が襲いかかった。彼の二人の子供は病気で死ぬ。育てていた孤児は勝手に出ていった。Ephraimの妻は子供を失ったショックから精神に異常をきたして死んでしまう。もう1人の同居人も死んだ。

残されたEphraimは、年老いた伯父夫婦を連れて汽車で Calcuttaへ旅立つ。Shusanの街にユダヤ人はいなくなった。

――神は護ってくださるはずなのに、なぜ・・・。そこでEphraimの合理的解釈:「他の人がたくさんすぎるなかで我々ユダヤ人が少なすぎるので、神がうっかりしておられるのだ。」

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The Limitations of Pambe Serang (1889)


インド人水夫の長(serang)であるPanbeが、食べ物の恨みと刺された恨みで、相手の黒人を執念深く追い続ける。

航海中、ナイフが飛んできたり、間近に重いものが落ちてきたりして恐怖に駆られた男は、ボンベイに上陸して人にまぎれた。するとPanbeもボンベイで待った。

男は乗務する船をかえて中国からイギリスに向かった。Panbeは別の船に乗ってそれを追い、ロンドンの波止場で待つことにしたが、病に倒れた。もう最期かと思われたとき、男の声が聞こえた。Pambeは男を部屋に呼び入れてもらい、ベッドに身をかがめた相手を刺し殺す。

Pambeは法により健康になるまで看護を受け、法により死刑となった。

――「マレー人を怒らせるのは賢明ではない。忘れるということがないからだ。」ようするに、アジア人は彼らにとって『理解不可能』な存在であることの一例。
「Pambe」は、もとのつづりでは「e」に「'」がついている。


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Little Tobrah (1888)


幼いLittle Tobrahは証拠不十分で無罪の判決を下された。井戸の底で発見された妹を殺した疑いがかかっていた。

自由になったLittle Tobrahは外に出て、空腹のため、馬の食べ残したえさを食べた。それを咎めた馬丁を制して、イギリス人が彼を使うつもりで家に連れ帰った。

召使いたちに食べさせてもらったあと、Little Tobrahは自分の身の上を語る。彼の家は油絞りを家業としていた。両親は村で流行った天然痘で死に、妹は失明した。彼は兄と一緒に油絞りの仕事を続けていこうとするが、穀物商にだまされ、荒牛の扱いもうまくいかなかった。

ある時、油絞り器の軸が通る天井が落ち、家の壁は倒れ、牛はそれらの下敷きになって死んだ。彼ら3人は村を出た。兄は残った5アンナの金を持って、2人を置いて逃げた。

暑い夜、食べ物を求めて泣く妹を、彼は井戸に突き落とした。目撃者はなかったし、餓えるよりもましだと彼は言う。そうして、お腹がいっぱいになったLittle Tobrahはぐっすりと眠った。

――召使いたちは、たぶん、この話を内緒にしておくだろう。

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Moti Guj -- Mutineer


インドのコーヒー農園経営者が、開墾地の切り株を取りのけるためにゾウとゾウ使いを雇った。その中に素晴らしい1頭のゾウがおり、名前をMoti Guj(真珠のゾウ)という。その飼い主はDeesaという名の男で、酔うとMoti Gujを痛い目に遭わせるのだが、同時に大切にしてかわいがっていた。

Deesaはこの農園で真面目に働いていたが、酒が恋しくなり、農園主からなんとか10日の休暇を取り付ける。そうして、Moti Gujに10日後に戻ってくるからおとなしく働くように言い聞かせて、出かけていった。

Moti Gujは、Chihunというゾウ使いのもとで普段と同じように働いた。しかし、11日目の朝になってもDeesaが帰ってこなかった。Moti Gujは Chihunの言うことを聞かなくなり、仕事をしようとしない。

農場主は2頭のゾウにMoti Gujを鎖で打たせようとするが、1頭はMoti Gujの牙にかかって倒れ、もう1頭は逃げた。Moti Gujは開墾地をうろつき、他のゾウの仕事を邪魔して回った。

Chihunが罰として食事を与えないと言ったので、Moti Gujは彼の子供を人質にした。そうして豪華な夕食をものにすると、その夜中はDeesaを探して歩いた。

明け方、やっとDeesaが帰ってきた。互いの無事を確かめたゾウと人間は喜び、何事もなかったように仕事に戻っていった。

――どんなに手ひどく扱われても、飼い主がいちばん。それは、好物の酒を飲ませてくれるからという理由だけではない。
なぜか、このゾウに、Mulvaneyたち兵隊の姿が重なって見えるのだが・・・。


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Bubbling Well Road (1888)


ある村の近くに、数マイル四方の深い草藪がある。草の高さは3メートル以上あり、その中に僧が1人隠れ住んでいる。村人は彼を見ると石をぶつけて追い払う。

『私』は村人からその藪にイノシシの群が入ったと聞き、愛犬をつれて撃ちに出かけた。だがすぐに暑さに参り、しかも迷ってしまった。

やっとうっすらとついた道らしきものを見つけてたどり始めた『私』は、犬が見あたらないことに気づく。何歩か後戻りしたとき、自分の独り言が繰り返されて聞こえた。たしかに低い笑い声がする。

それは、地面に突然あいた井戸の中から聞こえるのだった。井戸に落ちる水が反響して笑い声に似た音を立てていたのだ。水には黒いものが浮いて、水の動きにつれて回っていた。死体だった。

井戸の向こう側の道はハッキリとしていた。『私』は犬をつれて隠者の小屋にたどり着き、藪から出る道案内をさせる。途中で横切った道は、3本ともあの井戸に向かっていた。

村人たちは、これまでに藪に入って帰ってこなかった人々は僧の魔術のためにその内蔵を使われたのだと言った。『私』は、機会を見て藪を焼き払ってやろうと思っている。

――見通しの利かない藪の中、道が井戸に向かってついているのは、偶然ではありえない。だが、その道をつけた目的は・・・?

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'The City of Dreadful Night' (1885)


重く湿った暑さに、眠られぬまま Lahore の街を歩く。夜10時、月に照らされて、家の周囲や荷車の周り、屋外の至るところに人が眠っている。死体のように。

街にはひどい匂いと音が満ちている。騒音は全体がひとつとなって、沈黙に感じられる。家の建て込んだ通りの熱は凄まじいが、さらに暑い店の中で仕事を続ける人々が見える。

真夜中近くになった。モスクの塔にのぼって、街を見下ろす。月明かりの中に人々の寝苦しい夜が見える。午前3時、やっと騒音が静まり、街は死んだような眠りにつつまれる。

だがすぐに夜明けとなり、『死体』は目覚めて起きあがり、街が動き始める。暑さで死んだ女の遺体が、ガートへ運ばれていった。

――夏の夜のスケッチ。Kiplingはしばしば不眠に悩まされた。

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Georgie Porgie (1888)


Georgie Porgie とあだ名される男が、上ビルマに赴任した。その地では、白人がしかるべき金額で現地妻を得る習わしがあった。彼も500ルピー支払って、村おさの娘と暮らすこととなった。

彼は彼女を Georgina と呼んだ。彼女は家の中を片づけ、彼の生活を心地よくしただけでなく、倹約して金を貯めた。

家庭的生活を経験して、彼はイギリス人の妻と生活したくなった。そこで、6ヶ月の休暇を許されると、Georgina を置き去りにして本国に帰り、結婚相手を見つけて、共にインドに戻ってきた。新しい任地はインド北部だった。

Georgina は、Georgie Porgie が約束の1ヶ月を過ぎても帰ってこないので、インドじゅうを探して回る。そうしてついに彼の家をつきとめるのだが、暗闇で独り泣くしかなかった。

――Plain Tales 'Yoked with an Unbeliever' のネガティブバージョン。

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Naboth (1886)


『私』の家の庭に、Nabothという男がやってきて物乞いをした。『私』は1ルピー渡した。翌日またNabothが来て、前日の1ルピーを元手に家の近くで菓子を売らせて欲しいという。『私』はそれを許可した。

庭は低木の茂みのところから道路に向かって傾斜している。次の日、Nabothは坂の下で道路際に座り、商品を入れたカゴを置いていた。始まりはこれだけのことだった。

その次の日、Nabothは坂の少し上にあがっていた。ハエを追うヤシ扇を持っていた。4日後、彼は低木の茂みまで上がってきて、その陰に入っていた。カゴの中の商品は増えた。

7週間後、近くで政府が大規模な工事を始めたので、Nabothの商売は作業員相手に繁盛した。彼は茂みを切り開いて売り場の規模を拡大した。

その後、土のかまどを築き、さらに茂みを切り開き、ついには芦小屋を建て、結婚して子供まで生まれている。彼が道路に汚水を垂れ流すので、『私』は当局にその改善を命じられた。そのうちに、彼の領土の向かい側で不可解な殺人事件が起こる。警察は『私』の執事を容疑者とみなした。

やがて茂みのほとんどが山羊の飼育場となった。小屋の壁は泥壁に変わり、さらに女たちが外から見えないように、小屋の裏手にフェンスを建てる工事が始まった。そのおかげで『私』の馬が1頭大ケガをして、殺さざるを得なくなった。

今はNabothはいなくなり、泥小屋は崩された。『私』は庭の端まで見渡せるように東屋を建てた。砦のように。

――Nabothは『私』を神にたとえて賞賛するが、『私』に商品の菓子を少しばかり渡すだけで、着々と土地を侵略し、トラブルを起こし、損害を与える。
最初に「帝国のアレゴリー」と言っているのは、ロシアとインドの国境問題のことである。


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The Dream of Duncan Parrenness (1884)


カルカッタで東インド会社に勤務する Duncan Parrenness がある夜見た夢を書き記したという形で語られる。

11月の下旬、ダンスパーティーで『私』はかなり酔い、自分が苦しんだ病のことやおおぜい死んでいった同僚のことを思い出しながら家に帰った。

ベッドで眠れぬまま、様々なことを思い出す。自分との婚約をあっさりと捨てて他の男と結婚した女。『私』が見栄のためだけに熱を上げていた女。母親のこと。明日からきちんと生活しよう・・・などと。そうして、突然、自分はそうなりたいと願うだけで総督にでも王侯にでもなれる確信を感じた。自分は誰をも恐れないのだと。

眠りから覚めると、男が1人部屋にいて、「代償をはらえば、長生きして総督になれるようにしてやろう」と言う。その男の顔は、『私』自身が歳をとりやつれた顔だった。

男のとった代償は、『私』の人に対する信頼、女性への信奉、『私』のなかの少年の心と良心の3つだった。男が『私』の胸に手を当ててそれらを取り去るたびに、そのあとには冷たさが入り込んだ。

明け方が近くなっていた。「代償は払った、何をくれるのか」と言う『私』に、男は何かを手渡した。あとで見ると、一かけの乾いたパンだった。

――Dickensの『クリスマス・キャロル』でゴーストの見せる未来は、「改めないとこうなる」という荒涼とした警告を示す。だが、この作品では、こうでないと過酷なインドでは生き残ることも出世することも出来ないのだと、『大人』への1ステップを示しているように感じられる。
Kiplingの第2作。ものすごく読みづらい。


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