Monthly Special * November 2004
 Thomas Hardy

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AFTER A JOURNEY


Hereto I come to view a voiceless ghost;
Whither, O whither will its whim now draw me?
Up the cliff, down, till I'm lonely, lost,
And the unseen waters' ejaculations awe me.
Where you will next be there's no knowing,
Facing round about me everywhere,
With your nut-coloured hair,
And gray eyes, and rose-flush coming and going.

Yes: I have re-entered your olden haunts at last;
Through the years, through the dead scenes I have tracked you;
What have you now found to say of your past--
Scanned across the dark space wherein I have lacked you?
Summer gave us sweets, but autumn wrought division?
Things were not lastly as firstly well
With us twain, you tell?
But all's closed now, despite Time's derision.

I see what you are doing: you are leading me on
To the spots we knew when we haunted here together,
The waterfall, above which the mist-bow shone
At the then fair hour in the then fair weather,
And the cave just under, with a voice still so hollow
That it seems to call out to me from forty years ago,
When you were all aglow,
And not the thin ghost that I now frailty follow!

Ignorant of what there is flitting here to see,
The waked birds preen and the seals flop lazily;
Soon you will have, Dear, to vanish from me,
For the stars close their shutters and the dawn whitens hazily.
Trust me, I mind not, though Life lours,
The bringing me here; nay, bring me here again!
I am just the same as when
Our days were a joy, and our paths through flowers.


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旅のあとで



僕はここに来て、もの言わぬ幽霊に会う。
  いったいどこへ連れて行くのだろう? 気まぐれな幽霊。
崖を登り、下り、とうとう僕は一人きり、道に迷い、
  ここからは見えない海の叫びに 気押される。
君が次はどこに現れるのか わからない、
  どちらを向いても 僕の前にいて、
    はしばみ色の髪、
灰色の瞳、ばら色の頬、近づいては離れて。


そう。 僕はついに戻ってきた、君の昔なじみの場所へ。
  何年も何年も、帰らぬ光景の中で 君を追ってきたけれど。
僕たちの過去を 君はなんと言うだろう?
  君を失ったまま僕が過ごした暗闇の向こう側から見て。
夏は甘さをくれたのに秋は別れを生み出した、そう言うかな?
  僕たち二人、おしまいのほうは
    初めほどうまくはいかなかった、君はそう言うのかな?
でも、もうすべて終わった、『時』はあざ笑うけれど。


君が何をしているのか、見えるよ。僕の先に立って行く
  二人がここで過ごした頃の なじみの場所へと。
滝だ、滝の上に白い虹が輝く
  あの頃の幸せな時間 あの頃の澄んだ空、
その下には洞穴、今もうつろな音が響くから
  まるで四十年の彼方から僕を呼んでいるみたいだ、
    あの頃 君はとても輝いていて、
僕が今かすかにたどる おぼろげな幽霊なんかじゃなかったのに。


ここをすべり行くものの姿には気づかずに、
  目覚めた小鳥が羽づくろい アザラシはのんびり寝転がる。
ねえ君、もうすぐ君は消えてしまうのだろう、
  星は鎧戸を下ろして 夜明けがぼんやり白くなるもの。
ほんとうに、僕は気にしてないよ、『生』は顔くもらせても、
  僕をここへ連れてきたって。いや、もう一度連れてきておくれ。
    僕はあの頃と同じなんだ
僕たちの日々が喜びに満ちて、花咲く小道を歩いたあの頃と。


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Thomas Hardy (1840-1928)


イングランド南部のドーセットシャーで石工の家に生まれる。最初は建築家を目指し、ロンドンで建築事務所に勤めた。

詩も小説も書いたが、現在では小説家として知られている。ヒースが繁る故郷の原野を舞台に、この世界を支配する『力』に翻弄される人間の姿がしばしば作品に描かれる。



1913年の春、ハーディはコーンウォールを訪れ、亡き夫人と過ごした若い頃を偲んだという。その旅のあとで書かれた詩。

その想い出は40年前のものだけれど、自然の風景は変わっていない。『僕』も昔と同じだと本人が言っているので、シニアではなく少し若そうな口調で書いてみました。



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