MONTHLY
SPECIAL * November 2000 William Blake |
The Chimney Sweeper When my mother died I was very
young, Songs of Innocence |
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えんとつそうじ 母さんが死んだとき ぼくはとても小さくて、 ちっちゃなトム・ダーカーって子が、頭を刈られて 泣いた、 そしたら トムは泣きやんで、ちょうどその夜 そこに 天使様がやってきて、ぴかぴかのカギをもっていて、 それから はだかで まっ白で、道具のふくろは おいてきぼりで、 そこで トムは目がさめた。 ぼくたちは 暗いうちにおきて 無垢の詩 |
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THE Chimney Sweeper A little black thing among the snow:
Because I was happy upon the heath.
And because I am happy. & dance
& sing. Songs of Experience |
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煙突清掃人 雪の中、小さく黒き者よ、 我ヒースの野にて幸福なりし故、 我幸福にして踊りかつ唄うが故、 経験の詩 |
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William Blake (1757-1827) 洋品商の息子としてLondonに生まれる。学校教育は受けずに版画職人に弟子入りしている。画家としても名高い。幼少時代に多くの天使や預言者エゼキエルの姿を見た<幻視体験>のエピソードはよく知られている。この能力は、後の作品に活かされることになった。 Songs of Innocence (『無垢の歌』)は1789年に出版、1794年これに Songs of Experience (『経験の歌』)が加えられ、Songs of Innocence and of Experience として出版された。Blake の最大傑作といわれる。他の作品と同様、自作のイラストがつけられており、絵画の方面からも興味深い。 Innocence と experience は、<田園>と<産業革命以後の都市>、<平安・幸福>と<不安・恐怖>、<理想>と<現実>といった、人間の魂の置かれた相反する状態をそれぞれ示している("Shewing the Two Contrary States of the Human Soul"、タイトルページの言葉)。これらはそのどちらか一方が選択されるべきものではない。人間はこの2つが現実に存在することを認め、それらを統合して、より高次の状態へと魂を持っていかねばならないのである。 ところで、果たして一般に言われるように『無垢の歌』は本当に<無垢>なのだろうか。少なくともこの 'The Chimney Sweeper' の innocence バージョンにおいては、詩人は純真な子供を描くよう装いつつ、読む者に悲惨な社会問題を突きつける。はっきりと非難めいた雰囲気が伝わる experience バージョンよりも、性質(たち)が悪い。煙突掃除の少年の無邪気な信仰と現実に対する従順さは、死によってしか報われることはないのか。 なお、作品中の"'weep"は、"sweep"(煙突掃除業者の呼び声)と、"weep"(=泣く)とをかけた言葉である。 当時煙突掃除に従事する多くの子供達は4才くらいから徒弟奉公に出された。煙突の中を上って掃除する上、めったに風呂に入らなかったので、皮膚病やガン(煤が発ガン性を持つため)にかかることが多かった。仕事の途中でまごついていると、下から火を焚かれることもあったという。彼等の平均寿命は当然短かった。 この問題は長い間、利害関係や無関心から事実上野放しであった。19世紀になっても、1840年と1864年の煙突掃除夫法(Chimney-sweeps Act)は確実な実効性を持たず、この過酷な児童労働を規制する決定的な法律が成立したのはようやく1875年になってのことであった。 |