MONTHLY
SPECIAL * June 2000 T. S. Eliot |
Ash Wednesday VI Although I do not hope
to turn again Wavering between the
profit and the loss And the lost heart
stiffens and rejoices This is the time of
tension between dying and birth Blessed sister, holy
mother, spirit of the fountain, And let my cry come unto Thee. From Ash Wednesday |
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聖灰水曜日 VI もういちど ふり返りたいとは 思わないけれど 夢がまじわる この短いうつろいの中で そして なくしたライラックと なくした海の声とで 死と誕生のあいだの 張りつめた「時」 祝福されたシスター、聖母、泉の精、庭園の魂、 そして ぼくの声を 主のもとに届かせて。 |
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Thomas Stearns Eliot (1888-1965) アメリカ生まれの英国詩人、批評家。 1927年イギリスに帰化、Anglo Catholic に改宗。 1948年ノーベル文学賞受賞。 昨今ではミュージカル CATS の原作者として名高い。 Ash Wednesday (灰の水曜日)とは、キリスト教会の Lent (四旬節:復活祭前の40日間で、キリストの断食を祈念する期間)の初日。 この日には信者が回心のしるしである灰を頭にいただくところから。 Ash Wednesday は、1927年から1930年に書かれた6つの詩編でできている。タイトルからも察せられるように、きわめて宗教色が濃く、しかもカトリック的な作品である。 例えばTのラスト2行は、カトリック教会の祈祷文の1つ < 天使祝詞 (Ave Maria)>に基づいている。 "Because I do not hope to turn again" (T)と、"Although I do not hope to turn again"(Y)からもわかるように、TとVIとは対になっている。Tでは、自分にまつわる全てのものから脱却しようとし、かつそのための導きを求める。それに対しYでは、支えを必要としながらも、失ったものを再び手に入れ自分の現実をあらたに生きる決意が表明されているように感じられる。 UからXではその間の様々な段階が示されるが、訳者はTが最も気に入っている。 |