Monthly Special * September 2008
 Charles Tennyson-Turner

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THE SEASIDE
IN AND OUT OF THE SEASON


In summer-time it was a paradise
Of mountain, frith, and bay, and shining sand;
Our outward rowers sang towards the land,
Follow'd by waving hands and happy cries:
By the full flood the groups no longer roam;
And when at ebb, the glistening beach grows wide,
No barefoot children race into the foam,
But passive jellies wait the turn of tide.
Like some forsaken lover, lingering there,
The boatman stands; the maidens trip no more
With loosen'd locks; far from the billows' roar
The Mauds and Maries knot their tresses fair,
Where not a foam-flake from th' enamour'd shore
Comes down the sea-wind on the golden hair.



*****


海 辺


夏には楽園だった
山と入江と湾、そして輝く砂浜。
沖へと漕ぎ出す人々は 陸に向かって歌った、
手を振り 楽しい声援が答えた。
満潮には もう そんな仲間も歩いていない。
潮が引けば、光る浜辺は広くなる、
波の泡に 裸足で駆け込む子供もいない、
波まかせのクラゲが 潮変わりを待つだけ。
捨てられた恋人みたいに 未練げ、
ボート屋が立っている。娘たちは もう
巻き毛をほどいて 歩かない。大波の轟きから 遠く離れて
モードやメアリは ブロンドを編む、
浮かれ騒いだ浜辺の 泡ひとつ
潮風から 金色の髪に落ちてはこない。



Charles Tennyson-Turner (1808-79)

Charles Tennyson-Turner については November 2005 を参照のこと。


季節はずれの海。日本もイギリスも、同じ雰囲気のようだ。

海辺のリゾート地で夏を過ごすことは18世紀後半から人気が出始め、19世紀に入ってさらに盛んになり、1840年代からは鉄道の普及によって大衆層にも爆発的に流行した。

ただし、今の海水浴場で見られるような女性の水着姿は、当時はなかった。人目を避けて、「水浴機械(bathing machine)」を使ったからである。水浴機械とは更衣室を兼ねた箱形の馬車で、中で着替えができ、馬に引かせて海に入ったところで、床に空いた穴から水につかるようになっていた。

この詩で、長い巻き毛をなびかせて歩く娘たちは、リゾート地の開放感を味わっていたのだろう。この頃、まっとうな大人の女性は常に髪をきちんと結っているものとされた。

街に戻って髪を結う彼女たちのイメージは、束の間の夏を忘れ去るセレモニーのようだ。

リゾート地の賑わいと寂れ方は潮の満ち引きに喩えやすいものだが、ここでは、季節はずれの海には満潮時にも干潮時にも誰もいない。そんな海辺を詩人はじっと見ていたのだろうか。



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