Monthly Special * September 2006
 Rudyard Kipling

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THE CHANGELINGS
(R.N.V.R.)


Or ever the battered liners sank
  With their passengers to the dark,
I was head of a Walworth Bank,
  And you were a grocer's clerk.

I was a dealer in stocks and shares,
  And you in butters and teas;
And we both abandoned our own affairs
  And took to the dreadful seas.

Wet and worry about our ways--
  Panic, onset, and flight--
Had us in charge for a thousand days
  And a thousand-year-long night.

We saw more than the nights could hide--
  More than the waves could keep--
And--certain faces over the side
  Which do not go from our sleep.

We were more tired than words can tell
  While the pied craft fled by,
And the swinging mounds of the Western swell
  Hoisted us heavens-high . . .

Now there is nothing--not even our rank--
  To witness what we have been;
And I am returned to my Walworth Bank,
  And you to your margarine!



*****


仮の姿



ズタぼろになった客船が
  乗客もろとも闇に沈む前、
僕は ウォルワス銀行の支店長で、
  君は 食料品屋の店員だった。

僕は 公債株式を商い、
  君は バターに紅茶。
だが二人とも 自分の仕事を放り投げ
  恐怖の海に乗り出した。

湿気と 行く手の不安とに――
  パニック、攻撃、敗走――
僕たちは委ねられた 千日の間
  千年続く夜の間。

僕たちは 夜が隠しきれぬほどのものを見た――
  波がとどめておけぬほど 沢山――
それから――舷側の向こうの顔たち
  眠りから消え去ることがない。

言葉にできぬほど 疲れていた
  迷彩色の船が すぐそこを飛び去るとき、
西風のうねりが揺れ動く山となり
  僕たちを天まで持ち上げるとき ・ ・ ・

今は 何もない――階級さえも――
  僕たちが何であったかを証すものは。
僕は ウォルワス銀行に戻り、
  君は マーガリンを売る。




Rudyard Kipling (1865-1936)

Rudyard Kipling にいては、 2002 January を参照のこと。


The Changelings: Debits and Credits, 1926.

changeling: 民間伝承で、妖精が人間の子供を盗む代わりに置いていく醜い妖精の子供のこと。取り替え子。

R. N. V. R.: Royal Naval Volunteer Reserve (英国海軍志願兵予備隊)

Hoisted us heavens-high: Penguin Books Debits and Credits の編注者 Sandra Kemp によれば、『詩篇』 108: 26 が反映しているという。(1987年版の注で「108: 26」となっているのは、「107: 26」のミスプリントと思われる。)

詩篇 107:
25 主が命じられると暴風が起こって、海の波をあげた。
26 彼らは天に昇り、淵にくだり、悩みによってその勇気は溶け去り、
(日本聖書協会、1955年)


インドでデビューした頃、Kiplingはインド陸軍の兵士を作品の題材としたが、彼らは「プロの」兵士であった。職業軍人となるべく教育を受けた将校や、本国でそれぞれが持っていた生活と決別して入隊した兵卒だった。

第一次大戦を背景として書かれたこの詩では、日常生活を中断して戦場を体験した「市民」が、ふたたび日常生活に戻る。

インドものにおいては、「一般人」は「civilan」と呼ばれ、軍関係者とは一線を画していた。しかし、ここでは、あちらとこちらを行き来するのである。

もとの日常に戻った二人は、しかし、もとの彼らだろうか。外見は同じでも「取り替え子」なのではないか?――戦場で見たものが彼らの精神に入り込み、彼らになりすましているのではないか?

それとも、妖精に連れ去られた後に戻された子供のように、どこか何かが違うのではないか? ほら、眠りから消えることのないものは、向こうの世界なのだ。

シンプルで控えめな言葉で書かれているために、かえって不気味さが深まっているようだ。



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