Monthly Special * August 2005
 Rudyard Kipling

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Butterflies

Eyes aloft, over dangerous places,
  The children follow where Psyche flies,
And, in the sweat of their upturned faces,
  Slash with a net at the empty skies.

So it goes they fall amid brambles,
  And sting their toes on the nettle-tops,
Till after a thousand scratches and scrambles,
  They wipe their brows and the hunting stops.

Then to quiet them comes their father
  And stills the riot of pain and grief,
Saying, 'Little ones, go and gather
  Out of my garden a cabbage-leaf.

'You will find on it whorls and clots of
  Dull gray eggs that, properly fed,
Turn, by way of the worm, to lots of
  Radiant Psyches raised from the dead.'

・  ・  ・  ・  ・

'Heaven is beautiful, Earth is ugly,'
  The three-dimensioned preacher saith,
So we must not look where the snail and the slug lie
  For Psyche's birth. . . . And that is our death!




空を見上げ、危ない足元を、
  子供らは蝶々の後を追う、
上向いた顔は 汗まみれ、
  虫捕り網で 虚空を切る。

そうして 棘の茂みに突っ込み、
  イラクサでつま先を刺す、
数え切れぬひっかき傷、何度も何度も駆け出すが、
  やがて 額をぬぐい、蝶々捕りは終わる。

そこへ父親が現れて 子供らをなだめ
  痛みと嘆きの騒ぎを鎮めて言う、
「お前たち、庭へ行って
  キャベツの葉を採っておいで。

「くすんだ灰色の卵が 渦巻きみたいにかたまって
  ついている。 ちゃんと飼えば、
まず青虫になって 屍から
  きれいな蝶々がたくさん 甦ってくるよ。」

・  ・  ・  ・  ・

「天国は美しく、地上は醜い、」
  三界を説く説教師は言う、
だから我々は 蝸牛や蛞蝓の這うところに求めてはならぬ、
  蝶の誕生を、と。 ・ ・ ・ 我々の死でもあるものを!



Rudyard Kipling (1865-1936)

Kipling についてはJanuary 2002 を参照のこと。

この詩のタイトルは、エディションによって次のように異なる。

'Kaspar's Song in "Varda"' (From the Swedish of Stagnelius.)
Traffics and Discoveries (1904) 、 'Wireless' (1902) のオープニング詩(初出)
詩の引用であるかのようなタイトルだが、実際には Stagnelius の作品ではなく、このタイトルは Kipling が子供の頃に読んだ翻訳詩集のパロディだと考えられている。(Lisa Lewes, 'Esplanatory Notes', Mrs Bathurst and Other Stories (Oxford University Press, 1991)).

'Psyche and the Children'
全集 The Seven Sea Edition の Songs from Books (1915)

'Butterflies'
詩集 The Definitive Edition of Rudyard Kipling's Verse (1940)


psyche:
プシュケ(英語読みは サイキ)。「蝶」と「魂」の両方を表している。古代ギリシアでは、人が死ぬときに魂が口から出ていくと考えられ、それが「蛹から抜け出す蝶」に象徴された。

プシュケは女性の姿に擬人化され、古代おとぎ話には愛の神アモルの若く美しい恋人として登場する。絵画では、プシュケには蝶の羽根があったり、そばに小さな蝶が描かれていることが多い。

the dead:
死んだもの、つまりここでは屍のように見える蛹のこと。

three-dimensioned preacher:
天国、地上、地獄というオーソドックスな精神の三世界を説く(キリスト教の)説教者のことらしい。(James Harrison, Rudyard Kipling (Twayne, 1982), p. 146.) しかし、三次元的にすなわち日常感覚や常識でものをとらえるという意味も重なっているのではないだろうか。

訳語の「三界」は仏教でいわれる三界<さんがい>のことではなくて、「3つの世界」。



魂を、あるいは美や真実といった簡単には手に入らない崇高なものを、人間は必死になって天上に求めるが、徒労に終わる。そこへ全知全能の(?)存在が現れ、それらは地上で生まれるものだと教える。注意深く育てれば。

「天国、地上、地獄」という考え方では、天国は美しく、地上は醜い。そんな地上に崇高なものを求めてはならないということになる。

しかし、Kipling はその醜い地上でこそ美しい蝶が生まれると言う。 'the empty skies'、空には何もない。

人間の死は、蝶の誕生。人間の犠牲から、得難いものが生まれるということだ。Kipling は人間の業績を信じていたのだろう。



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