Monthly Special * October 2003
 William Butler Yeats

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THE SONG
OF THE HAPPY
SHEPHERD


The woods of Arcady are dead,
And over is their antique joy;
Of old the world on dreaming fed;
Grey Truth is now her painted toy;
Yet still she turns her restless head:
But O, sick children of the world,
Of all the many changing things
In dreary dancing past us whirled,
To the cracked tune that Chronos sings,
Words alone are certain good.
Where are now the warring kings,
Word be-mockers?--By the Rood,
Where are now the warring kings?
An idle word is now their glory,
By the stammering schoolboy said,
Reading some entangled story:
The kings of the old time are dead;
The wandering earth herself may be
Only a sudden flaming word,
In clanging space a moment heard,
Troubling the endless reverie.

Then nowise worship dusty deeds,
Nor seek, for this is slso sooth,
To hunger fiercely after truth,
Lest all thy roiling only breeds
New dreams, new dreams; there is no truth
Saving in thine own heart. Seek, then,
No learning from the starry men,
Who follow with the optic glass
The whirling ways of stars that pass--
Seek, then, for this is also sooth,
No word of theirs--the cold star-bane
Has cloven and rent their hearts in twain,
And dead is all their human truth.
Go gather by the humming sea
Some twisted, echo-harbouring shell,
And to its lips thy story tell,
And they thy comforters will be,
Rewording in melodious guile
Thy fretful words a little while,
Till they shall singing fade in ruth
And die a pearly brotherhood;
For words alone are certain good:
Sing, then, for this is also sooth.

I must be gone: there is a grave
Where daffodil and lily wave,
And I would please the hapless faun,
Buried under the sleepy ground,
With mirthful songs before the dawn.
His shouting days with mirth were crowned;
And still I dream he treads the lawn,
Walking ghostly in the dew,
Pierced by my glad singing through,
My songs of old earth's dreamy youth:
But ah! she dreams not now; dream thou!
For fair are poppies on the brow:
Dream, dream, for this is also sooth.





羊飼いの歌


アルカディアの森は死んで、
いにしえの喜びが終わった、
昔 世界は 夢見ることで生きていたのに、
今は 灰色の『真実』を 色ぬりたてたおもちゃにして、
それでもまだ 休みなく首<こうべ>を廻らす。
だけど ほら、世界の病んだ子供たち、
変化するものが たくさん
『時』のひび割れた歌にあわせて、
さびしく踊って 渦巻いて 僕たちのそばを通るけど、
その中で ただひとつ ことばだけが たしかに良いものなんだ。
戦う王たちは、
ことばをあざ笑うやつらは 今どこに?――十字架にかけて、
戦う王たちは 今どこにいる?
中身のない言葉が 今は やつらの名誉なんだよ、
もつれた物語を
生徒がつかえつかえに読むときの。
古い昔の王たちは死んで、
さまよう大地そのものが
ふいに燃えあがる言葉でしかないのかも、
ガンガンいう空気の中で 一瞬 聞こえて、
永遠の幻をかき乱すみたいな。

それなら 味気ないおこないを あがめるんじゃない、
これも本当のことなんだから、
真実を 餓えたみたいに欲しがるんじゃない、
君の苦労が 新しい夢を、新しい夢を
育てるだけにならないように。 真実はないんだ
君の心の中にしか。 それなら、
星見たちから 学ぼうと思うんじゃない、
レンズを通して
めぐって過ぎる星の道を追いかける やつらから――
それなら、これも本当のことなんだから、
やつらの言葉を探すんじゃない――冷たい星の力は
心を 二つに裂きちぎって、
死だけが やつらのいう人間の真実なんだよ。
ざわめく海辺で ひろいあつめろ
こだまを宿す巻き貝を、
その口に 話をすれば、
なぐさめになってくれるよ、
歌うみたいに だまして
少しのあいだ 君のいらだつ言葉に こたえてくれる、
やがて 哀しみのうちに 歌い消え
真珠の仲間として 死んでしまうまで、
ただひとつ ことばだけが たしかに良いものなんだから。
それなら、歌えよ、これも本当のことなんだから。

行かなくちゃ。 墓には
スイセンとユリがゆれる、
僕は かわいそうなファウヌスをなぐさめよう、
眠そうな地面に 埋められたんだ、
夜明け前 陽気な歌に送られて。
あいつの喝采の日々は 浮かれ騒ぎで最後を飾り、
だけど今でも 僕の夢で あいつは芝を踏み、
露にぬれて 影みたいに歩く、
僕が楽しく歌うから 心にしみて、
老いた大地の 夢みたいな若さを歌う 僕の歌が。
だけど、ほら、今 大地は夢を見ない、君が夢を見るんだ。
ケシの花は 額にあって美しいから。
夢を見ろよ、夢を見るんだ、これも本当のことなんだから。






William Butler Yeats (1865-1939)

Yeats については April 2000 を参照のこと。


faun : ファウヌス。複数形 fauns(ファウヌスたち)で使われることが多い。ローマ神話の山野の精。ギリシア神話のサテュロス satyr にあたる。酒神バッカスの従者で、とがった耳と山羊の脚を持つ。角を生やしていることもあり、一般に粗野な顔つきに描かれる。陽気で好色、酒好き。

なお、カタカナでは同じくファウヌスとされる Faunus はローマ神話の山野・牧畜の神であり、ギリシア神話のパン Pan と同一視される。同じような姿をしているが、Faunus (Pan) が一人の神であるのに対し、fauns (satyrs) はニンフと同じように野や森のあちこちに存在する精である。

挿絵のファウヌスがかぶっているのは、ツタ。バッカスに捧げられた植物である。

daffodil : ラッパ水仙。ギリシア神話によれば、この花はもとは白かった。プロセルピナ(ペルセポネ)は冥界の王プルート(ハデス)に連れ去られた時にこの花冠をかぶっていたが、途中でいくつか落とした花が黄金色に変わったという。

lily キリスト教美術で純潔の象徴とされる一方、白いユリには『死』のイメージがある。葬儀や墓を飾るのに用いられ、見舞いには好まれない。楽園を追い出されるときにイヴが流した後悔の涙から生まれたという伝説がある。

poppies
: <poppy  ケシの花は古くから『眠り』『死』の象徴とされてきた。



人間はかつて夢を――想像力を――糧にしていたのに、今や無味乾燥な事実を『真実』として嬉しがる。それが素晴らしいのはうわべだけなのに。

人間は病んで――心の拠り所を見失って――いる。だが、時はうつり様々な出来事や思想が生まれ起こっては忘れられていくが、『ことば』だけが永遠に拠り所となるものなのだ。

現実の具体的な目的を達成することを第一とする現代。『実用』だけを求めていて、精神世界で何を成し遂げられるだろう? 人間としての豊かさは、どうだろう?

イェイツはそんなふうに問いかけ、夢を見よ(想像力を復活させよ)、歌を歌え(自分の思いを表現せよ)、と訴える。

『真実』が人の心の中にあるのであれば、夢や歌の中にも『真実』が含まれているだろう。それらを伝達可能な形にしたのが、『ことば』なのだ。真実を含むゆえに、不変の価値を持つ。人の心を打つ。それは単に事実を記録する『言葉』とは、違う。



「聞け、万国の文学人!」 この詩にはイェイツのそんな念が込められているように感じられないだろうか。

『文学人<ぶんがくにん>』とは担当者の造語で、文学を愛好し文学作品にしみじみ感を持つ人のこと。文学は飯のタネにはなりにくく、その上ややもすると時代に置いてきぼりにされそうだったりする。



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