MONTHLY SPECIAL * December 2003 (1)
 Rudyard Kipling

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THE RETURN OF THE CHILDREN


Neither the harps nor the crowns amused,
  nor the cherubs' dove-winged races--
Holding hands forlornly the Children wandered
  beneath the Dome,
Plucking the radiant robes of the passers-by,
  and with pitiful faces
Begging what Princes and Powers refused:
  --'Ah, please will you let us go home?'

Over the jewelled floor, nigh weeping,
  ran to them Mary the Mother,
Kneeled and caressed and made promise with kisses,
  and drew them along to the gateway--
Yea, the all-iron unbribeable Door which Peter
  must guard and none other.
Straightway She took the Keys from his keeping,
  and opened and freed them straightway.

Then, to Her Son, Who had seen and smiled, She said:
  'On the Night that I bore Thee,
What didst Thou care for a love beyond mine
  or a heaven that was not my arm?
Didst Thou push from the nipple, O Child,
  to hear the angels adore Thee?
When we two lay in the breath of the kine?'
  And He said: --'Thou hast done no harm.'

So through the Void the Children ran homeward merrily
  hand in hand,
Looking neither to left nor right
  where the breathless Heavens stood still;
And the Guards of the Void resheathed their swords,
  for they heard the Command:
'Shall I that have suffered the children to come to Me
  hold them against their will?'










帰された子供たち


ハープの調べ 冠や、小天使が鳩の翼で飛び競うのにも
   心なごまず――
心細げに手をつなぎ 子供たちは 円蓋の下をさまよった、
通りゆく人々の光り輝く衣をとらえては、
痛ましげな顔で乞うた 諸侯も王も拒む願いを。
   ――「どうか、僕たちを帰らせてください。」

宝石ちりばめた床を、涙流さんばかりに、聖母マリアが駆けてこられた、
膝をつき やさしくなでて キスをしながら約束された、
   そうして 子供たちを 門まで連れて行かれた――
そう、他ならぬ聖ペテロが護る あの不正の通じぬ鉄門まで。
すぐさま聖母は ペテロのもとから鍵をお取りになり、
   門を開き 子供たちを外に出された。

そうして、我が子に、それを見て微笑んでおられた方に、聖母は言われた。
   「私があなたを産みもうしあげた夜、
私の愛より他に何を、私の腕という天国でない何を
   あなたは望まれたでしょう?
我が子よ、あなたを讃える天使の声を聞こうと
   あなたは乳首を離されましたか?
牛の息がかかるところで 私たち二人が横になっておりましたときに。」
   そこでその方は言われた。――「あなたは悪いことをしていない。」

それで 子供たちは 天空を家へと駆けた、手に手をとって、楽しげに、
左も右も見ることなく、そよとさえ風のない 空の静まりかえるところを。
天空の護り手たちは剣を収めた、命じられるのを聞いて。
「あの子供たちがわたしのもとに来ることを許した
   そのわたしが 強いて彼らを留めおくだろうか。」







Rudyard Kipling (1865-1936)

Kipling については、2002 January を参照のこと。

'The Return of the Children' は、短編 'They' とセットで Traffics and Discoveries (1904) に収められた。のちにこの詩だけが Songs from Books (1912) にも収められた。

Kipling は 1899年に長女 Josephine を7才で失っている。風邪をこじらせたためだった。しかも、彼自身が急性肺炎による生命の危機を脱した直後のことであった。

'The Return of the Children' には('They' にも)、我が子を失った Kipling の哀しみが反映されているのだろう、マリアもイエスも、私たちのいう意味で「やさしい」。訳者は宗教的作品が苦手だが、ここでは母が子に、子が母にいだく自然な気持ちがメインになっており、その点ではすんなり受け入れられる。

この詩の内容はクリスマスのことではないが、"On the Night that I bore Thee," は『聖夜』にあたる。

'They'

この短編のタイトルにはもとから ' ' がついている。「子供たち」を指すのだが・・・。

まだ自動車が珍しかった頃のイギリス。話し手の男性は、ドライブ中に道に迷い、美しいお屋敷の庭園に入り込んでしまう。屋敷の窓にも木々の間にも、子供の姿が見えた。屋敷から出てきたのは盲目の女主人だった。

彼は誤って侵入したことを詫びるのだが、彼女はかえって喜び、子供たちに自動車の走るところを見せてやってほしいと言う。子供たちは恥ずかしがって出ては来なかったが、彼は石畳の道をゆっくり往復してやる。彼らの喜ぶ声が聞こえた。そして、分かれ道まで執事に同乗してもらい、彼は家に帰った。

夏、彼はまたあの屋敷に行こうとドライブに出かけた。よく思い出せなかったが、まるで自動車が道を知っているかのように、例の村にたどり着いた。ところが、そこで故障してしまう。修理を始めると、森の中から、子供の声が聞こえてくる。工具に興味をひかれて近寄ってきたのだろう。ちょうどその時、盲目の女主人が現れる。

修理が終わった頃、近所の子供が病気で死にそうなことを知り、彼は医者を迎えに自動車を走らせる。診察が終わると、薬や付き添い看護婦を捜し求めて走り回り、大騒動の午後が終わった。

やがて秋になり、彼はまた屋敷を訪れた。天気は急変し、暗く雨が降ってきた。盲目の女主人は彼を案内して屋敷の中を見せる。庭だけでなく、屋内も子供のために作られたかのようだ。子供部屋にはおもちゃが置いてある。子供たちがそっと駆け回る足音、くすくす笑いが聞こえる。大人を出し抜いて、どこかで驚かそうというのだろう。

暖炉の灯りの中、お茶が出された。子供はすぐ後ろにある衝立の裏に隠れているらしい。子供を誘い出すため、彼は無視していることにした。やがて、後ろに出した彼の手に子供の手が触れた。さあ、振り向いてやろう。子供は彼の手のひらにキスした。だが、その時、彼にはわかった。

「子供たち」は幽霊だった。子供のいない女主人が子供のいるふりをしているうちに、現れるようになったのだという。彼は二度とこの家を訪れないことにする。

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