Monthly Special * March 2001
 William Blake

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Introduction

Piping down the valleys wild
Piping songs of pleasant glee
On a cloud I saw a child,
And he laughing said to me.

Pipe a song about a Lamb:
So I piped with merry cheer,
Piper pipe that song again
――
So I piped: he wept to hear.

Drop thy pipe, thy happy pipe
Sing thy songs of happy cheer,
So I sang the same again
While he wept with joy to hear

Piper, sit thee down and write
In a book, that all may read
――
So he vanish'd from my sight
And I pluck'd a hollow reed

And I made a rural pen,
And I stain'd the water clear,
And I wrote my happy songs,
Every child may joy to hear.


***

序  歌


さびしい谷を 笛吹き下る、
心地よい歌の調べを 笛吹いて、
その時 子供が雲の上、
私に笑って その子は言った。

「こひつじの歌を吹いてよ」
そこで私は陽気に吹いた。
「笛吹さん、もう一度吹いてその歌を。」
そこで私はまた吹いた。その子は涙で聞いていた。

「笛をおやめよ、楽しい笛を。
楽しい歌を 歌ってよ。」
そこで私がもう一度 同じ歌を歌ったら
涙を流して喜んだ。

「笛吹さん、座ってお書きよ
本にして、みんながそれを読めるように。」
言って その子は姿を消した、
そこで うつろの葦を抜き、

それを鄙びたペンにした、
そして 清らな水を染め、
私は書いた 楽しい歌を
どの子も聞いて 歓ぶように。

 


・ LIST ・

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Spring


Sound the Flute!
Now it's mute.
Birds delight
Day and Night,
Nightingale
In the dale
Lark in Sky
Merrily
Merrily Merrily to welcome in the Year

Little Boy
Full of joy,
Little Girl
Sweet and small,
Cock does crow
So do you.
Merry voice
Infant noise
Merrily Merrily to welcome in the Year

Little Lamb
Here I am.
Come and lick
My white neck.
Let me pull
Your soft Wool.
Let me kiss
Your soft face
Merrily Merrily we welcome in the Year


***


笛 吹きならせ!
黙ったままの。
小鳥は よろこび歌う
昼も 夜も。
ナイチンゲールは
谷に、
ヒバリは 空に、
快活に、
陽気に、たのしく、この年をむかえるよ。

少年は
嬉しさにあふれ。
少女は
あいらしく あどけなく。
鶏はトキをつくり、
君もまた歓びの声を。
あかるい語らい、
無邪気な はしゃぎ、
陽気に、たのしく、この年をむかえるよ。

こひつじ、
僕だよ。
白いうなじを
なめにおいで。
ふんわり巻き毛を
ひっぱらせておくれ。
やわらかな顔に
キスさせておくれ。
陽気に、たのしく、僕らはこの年をむかえよう。

 

・ LIST ・


William Blake については November 2000 を参照のこと。


ともにSongs of Innocenceより。

"Introduction"の 'a Lamb'は、イエス・キリストをも意味するとの解釈が一般的である。全体に子供らしくあどけない言葉遣いと雰囲気であるが、その線で読めば、実はこの無邪気な子供は、この詩人に詩人としての使命を与え、そのため彼はおそらく苦難の道を歩むことになるであろう、あたかも神のような存在である。

引用符なしで書かれる子供の言葉は、この子供が詩人の(想像力の)一部であることを示しているとも考えられる。

"Spring"にも'Lamb'が出てくる。それに続く'Here I am'については、聖書中では神の前で「ここにおります」の意味で使われることの多い文句であることをBlakeは意識している、との指摘もされる。

各連のラストは年末か新年に相応しい言葉であるが、春を「全てが新しく始まる嬉しい季節」と感じるのは、生きるものに共通した自然な感覚ではないだろうか。それ故、しばしばメランコリーな夜の鳥と見なされるナイチンゲールまでが、明るい昼の鳥ヒバリとともに楽しげに歌っているのである。

どちらの詩ももちろん、必ずしも宗教的に解釈しなければならないというわけではない。むしろ、やさしい、かわいい雰囲気を、これらの詩の魅力として楽しみたいと思う。

 

・ LIST ・