MONTHLY SPECIAL * November 2000
 William Blake

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The Chimney Sweeper

When my mother died I was very young,
And my father sold me while yet my tongue
Could scarcely cry "'weep! 'weep! 'weep!"
So your chimneys I sweep, & in soot I sleep.

There's little Tom Dacre, who cried when his head,
That curl'd like a lamb's back, was shav'd: so I said
"Hush, Tom! never mind it, for when your head's bare
"You know that the soot cannot spoil your white hair."
 
And so he was quiet, & that very night,
As Tom was a-sleeping, he had such a sight!
That thousands of sweepers, Dick, Joe, Ned, & Jack,
Were all of them lock'd up in coffins of black.

And by came an Angel who had a bright key,
And he open'd the coffins & set them all free;
Then down a green plain leaping, laughing, they run,
And wash in a river, and shine in the Sun.

Then naked & white, all their bags left behind,
They rise upon clouds and sport in the wind;
And the Angel told Tom, if he'd be a good boy,
He'd have God for his father, & never want joy.

And so Tom awoke; and we rose in the dark,
And got with our bags & our brushes to work.
Tho' the morning was cold, Tom was happy & warm;
So if all do their duty they need not fear harm.

Songs of Innocence

***

えんとつそうじ

母さんが死んだとき ぼくはとても小さくて、
父さんはぼくを売った ぼくがまだ やっと
「んーとつ しょーじぃー!」と 言えるかどうかのころに
だから ぼくは えんとつそうじをして、すすにまみれて ねむってる。

ちっちゃなトム・ダーカーって子が、頭を刈られて 泣いた、
子羊のせなかみたいに カールしてたのに。 それで ぼくは言ってやった
「泣くなよ、トム、気にしない。 だって 丸坊主なら
「うす金色の髪が すすでよごれたりしないだろ。」

そしたら トムは泣きやんで、ちょうどその夜
ねむっているとき トムはこんな夢を見たんだよ!
かぞえきれない えんとつそうじが、ディックもジョーもネッドもジャックも、
みーんな 黒の棺おけに とじこめられてた。

そこに 天使様がやってきて、ぴかぴかのカギをもっていて、
棺おけをあけて みんなを出してくれたんだ。
それで みどりの原っぱを はねたり わらったり、かけていって、
川で からだをあらって、おひさまの光で きらきらになった。

それから はだかで まっ白で、道具のふくろは おいてきぼりで、
雲にのぼって 風の中で あそんでた。
天使様は トムにこう言った、よい子でいるなら
神様をお父様とすることができよう、決して喜びには事欠かぬであろう。

そこで トムは目がさめた。 ぼくたちは 暗いうちにおきて
ふくろとブラシをもって 仕事にかかった。
朝は寒かったけれど、トムは幸せで あったかだった。
そうなんだ みんな 自分のやることをちゃんとやれば
  こわがることなんて ないんだよ。

無垢の詩

*****

THE Chimney Sweeper

A little black thing among the snow:
Crying weep, weep, in notes of woe!

Where are thy father & mother? say?

They are both gone up to the church to pray.  

Because I was happy upon the heath.
And smil'd among the winters snow:

They clothed me in the clothes of death.

And taught me to sing the notes of woe.  

And because I am happy. & dance & sing.
They think they have done me to injury:
And are gone to praise God & his Priest & King
Who make up a heaven of our misery.

Songs of Experience

***

煙突清掃人

雪の中、小さく黒き者よ、
哀切の調子にて「煤払い」の声を上げつつある。
汝が親御は何処(いずこ)に在るや、答え給え。
彼等共に教会堂へと祈りに出でぬ。

我ヒースの野にて幸福なりし故、
冬の雪中に笑い居りし故、
彼等は我に死の衣を被(き)せたり、
また我に哀しき調べを唄うよう教えたり。

我幸福にして踊りかつ唄うが故、
彼等は我に害(あだ)なしたるものと思いて、
神とその祭司と王とを讃えに行きぬ
それらは我等が悲惨より天国を造る者達なり。

経験の詩

***

William Blake (1757-1827)

洋品商の息子としてLondonに生まれる。学校教育は受けずに版画職人に弟子入りしている。画家としても名高い。幼少時代に多くの天使や預言者エゼキエルの姿を見た<幻視体験>のエピソードはよく知られている。この能力は、後の作品に活かされることになった。

Songs of Innocence (『無垢の歌』)は1789年に出版、1794年これに Songs of Experience (『経験の歌』)が加えられ、Songs of Innocence and of Experience として出版された。Blake の最大傑作といわれる。他の作品と同様、自作のイラストがつけられており、絵画の方面からも興味深い。

Innocence と experience は、<田園>と<産業革命以後の都市>、<平安・幸福>と<不安・恐怖>、<理想>と<現実>といった、人間の魂の置かれた相反する状態をそれぞれ示している("Shewing the Two Contrary States of the Human Soul"、タイトルページの言葉)。これらはそのどちらか一方が選択されるべきものではない。人間はこの2つが現実に存在することを認め、それらを統合して、より高次の状態へと魂を持っていかねばならないのである。

ところで、果たして一般に言われるように『無垢の歌』は本当に<無垢>なのだろうか。少なくともこの 'The Chimney Sweeper' の innocence バージョンにおいては、詩人は純真な子供を描くよう装いつつ、読む者に悲惨な社会問題を突きつける。はっきりと非難めいた雰囲気が伝わる experience バージョンよりも、性質(たち)が悪い。煙突掃除の少年の無邪気な信仰と現実に対する従順さは、死によってしか報われることはないのか。

なお、作品中の"'weep"は、"sweep"(煙突掃除業者の呼び声)と、"weep"(=泣く)とをかけた言葉である。

当時煙突掃除に従事する多くの子供達は4才くらいから徒弟奉公に出された。煙突の中を上って掃除する上、めったに風呂に入らなかったので、皮膚病やガン(煤が発ガン性を持つため)にかかることが多かった。仕事の途中でまごついていると、下から火を焚かれることもあったという。彼等の平均寿命は当然短かった。

この問題は長い間、利害関係や無関心から事実上野放しであった。19世紀になっても、1840年と1864年の煙突掃除夫法(Chimney-sweeps Act)は確実な実効性を持たず、この過酷な児童労働を規制する決定的な法律が成立したのはようやく1875年になってのことであった。

 

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