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ナルキッソス: [Narcissus] 美貌の若者。 

エコー: [Echo] 森のニンフ、アルセイデス[Alseides] の一人。



おしゃべりなニンフのエコーは、夫ゼウス(=ローマ神ユピテル)の浮気の現場をおさえようとやって来たヘラ(=ローマ神ユノ)のじゃまをして怒りをかい、誰かに話された言葉を繰り返すことしかできなくされた。

エコーは美少年ナルキッソスに恋をして近づくが、会話が成り立たない。ナルキッソスはエコーから逃げた。絶望のあまり痩せ細ったエコーはついに肉体を失い、声だけの存在になってしまった。これが『やまびこ』である。

ナルキッソスは他の乙女たちにも冷淡だった。そんな乙女の一人が願いをかけた。「あの人にも同じ思いを。」 その願いを聞き届け、復讐の神はナルキッソスに罰を与えた。彼は水に映る自分の姿を美しいニンフだと思い、恋をする。

水の中の『恋人』は情熱的な眼差しで自分を見つめてくれるのに、いくら呼んでも何も語りかけてはくれない。触れようとして手を伸ばせば、涙を落とせば、水面が揺れてその姿は消える。

ナルキッソスはそこから離れられなくなった。そして実らぬ恋に憔悴し、やがて死んでスイセンの花に姿を変えた。だからスイセンは水辺で自分の姿を水に映しているのだという。



ナルキッソスにふられたエコーは、声だけになってもなお、水に映った自分の影に恋いこがれる彼を見守っていた。彼がため息をつけば、彼女も同じようにため息をついた。けなげな恋心である。しかし、けなげさが常に報われるとは限らない。

自分を冷たくあしらった男への復讐として、同じく「報われない恋心」を味わわせる。女心、というより人間の考えることは、昔も今も変わらない。人間世界の真実や不条理までもそっくり反映したかのようなギリシア(ローマ)神話が、私は好きである。



ニンフとは、川や泉、、海、山、樹木などの精で、乙女の姿をしている。アルテミス(=ローマ神ディアナ)など特定の神の従者を務めていることもある。一般に不死ではないが、大変な長命を持つ。

アポロン(=ローマ神アポロ)に恋いこがれてヒマワリの花になったクリュティエをはじめ、人間や神との恋愛物語は多い。彼女たちは神話を彩る可憐な花といえよう。

なお、この話のスイセンは、白花で副花冠(中央のカップ型の部分)に紅色が入るクチベニスイセンだといわれる。


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