009 Fanstories

・ 00:00:00/14/02/2001 ・
The Eve of St. Valentine's Day


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限りない静寂。精神だけが、目覚めた。身体は、文字通りただの物体と化している。

生体脳からも人工体からも――物質から自由になった精神の速度。フルに加速しても、追いつかない。永遠の一瞬とは、こういうことを言うのだろうな。

ジョーは自分の身体を眺めている。

外見は変わらないはずなのに・・・何となくくたびれたような感じがする。もう、何年になるんだろう。

上のほうが――身体から相対的にいえば上だ――明るい。そこは自分の知っている場所のような気がする。

次の瞬間、ジョーは「そこ」にいた。

建物の構造もデザインも全く別だが、ギルモア研究所だとわかっている。そうか、並行宇宙。いろんなバリエーションで、世界が存在するんだ。

もちろん[自分]がいる。フランソワーズも仲間たちも、一緒に住んでいる。ふんわりとした空気が、わずかに哀愁を帯びた桜色だ。

少年の姿、子羊の眼をした[自分]。伝説の聖なる少女のようなフランソワーズ。やんちゃ盛りの犬と遊んでいる。クリスマスに拾ってきたらしい。

チョコレート、だって? この世界でも、張々胡は食いしん坊だ。ブリテンと相談している。そんなに高いものなのか?

光があふれる窓を抜けて、ジョーはまた別のギルモア研究所にいた。

やはり、みんな一緒に生活しているのか。淡く黄色がかったペパーミントグリーンの、賑やかな気配。

ここでも[自分]は華奢で透明な少年だ。だが何を考えているのかわからない。

鉢に如雨露で水をやって、床が水浸し――いつもそうらしい。室内園芸用の水やり器を使えばいいのに。

あれはフランソワーズの部屋か――清らかな少女の微笑。手にしている包み、リボンをかけて。誰かの誕生日? 大切そうに一緒に袋に入れているのは、何だろう。

あの霧のドア。その向こうは、また別の世界。たぶんベッドルームなんだろう。なぜか、それがわかっている――こっちの、風の吹く廊下を抜けよう。

ああ、ここは? アイスブルーの大気――もしこの世界に創造主がいるなら、きっと数式でものを考えているのだろう。

ずいぶん背の高い[自分]。少年というより、青年に近い。勝気で美人のフランソワーズに頭が上がらない。研究所の外で、別々に住んでいる。ごく普通の、どこにでもいるような、[付き合っている二人]。幸せそうだ。

華やいだ売り場。仕事帰りのフランソワーズがひとり真剣に選んでいるのは、ここでもまたチョコレート。紙袋にはすでに、小さな包みがいくつも入っているのに。

研究所にやってきたジェットが、義理が何とかと言っている。何の話だ?

だが、さあ、そろそろ戻ろう。動力系統切り替え時の瞬間。物体にとっては一瞬の時間。精神にとっては遥かな自由の時間。

そして次の機会まで、自分はまた意識の底に。数秒後、定期点検整備後のリセットが完了する。

それにしても、あれは――並行するどの世界でも当然のように聞こえてきた[バレンタインデー]とは、いったい何だろう。2月14日?この自分の世界では聞いたことがない・・・。

生体組織維持外部動力、カット。人工体システムON。動力切り替え、完了。作動状況、異常なし。制御用データ転送、チェック、完了。脳、異常なし。復帰完了。覚醒。00:00:00/14/02/2001。

栗色の髪がわずかに揺れて、ゆっくりと瞼が開く。

ああ、終わったのか。――ちゃんと音が聞こえる。今回は加速装置のトラブルがなくて、よかったな。


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The End


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