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レポート 221202
レポート課題: 名作を『009』に応用せよ
標題: 『クリスマス・ディナー』 Mistletoe(宿り木)


お祖父さんお祖母さんが孫たちを引き連れて教会から戻ってくると、さあ、クリスマス・ディナーだ。

お祖父さんはポケットに用意した宿り木の枝を取り出し、男の孫たちに声をかける。

「ほれ、キスしてもええぞ。」

みんな喜んでいとこの女の子たちにキスをするんだが、もちろんお祖父さんも大喜びなんだ。

だけど、お祖母さんは気むずかしくて、礼儀作法に反するとか何とか言うから、お祖父さんは反撃する。

「このワシがばあさんにキスしたのは、13才3ヶ月の時じゃった。」

ジョージおばさんもジョージおじさんも、子供たちも爆笑だ。だけどお祖母さんはわりとご満悦で、にっこり笑って言う。

「ええ、おじいちゃんはどうしようもない『悪ガキ』だったのですよ。」

そこでまたみんな大爆笑で、やっぱり一番笑うのはお祖父さんだ。

ほんとに楽しいけれど、次に来る盛り上がりに比べたら、まだたいしたことじゃない。お祖母さんもお祖父さんもきちんと服を整えて、客間の暖炉脇に待機。お客さんがやってくるんだ。

お客さんが玄関に到着するたびに、子供たちは客間のドアにダッシュ、階段を駆け下りて行く。そして、わいわい大騒ぎで2階に連れてくる。

いちゃつく年上のいとこたち、見習う子供たち。客間はおしゃべりと笑い、おもしろ騒ぎのごたまぜになる。

騒ぎが一瞬とぎれた時、控えめなノックの音が聞こえた。

「だれだろう?」

窓際にいる子供たちが、遠慮がちに言う。

「あの・・・、マーガレットおばさんなんだけど。」

ジョージおばさんが部屋を飛び出し、迎えに行く。お祖母さんは背筋を伸ばして、威厳を見せる。

マーガレットおばさんは、お祖母さんに背いて、貧乏な男の人と結婚してしまった。その罰に、親戚も友人もおばさんとは付き合ってはならない、ということになっていたんだ。

だけど、クリスマスがやってきて、それまで「もっと優しくなろうという気持ち」と争ってきた「冷たい気持ち」が、とけだした。凍りかけの氷が朝陽にとけるように。

マーガレットおばさんは、ずっとこの家の暖炉の前で大きくなった。子供から娘へ、そして大人の女へと。その場所から、しかもこのクリスマスに、追放するなんて、できるわけがない。

おばさんが入ってくる。青い顔をして、やつれて。だけど、それは貧乏のせいじゃない。されなくてもいい無視をされて、いわれなく冷たい仕打ちをされて、それが応えていたんだ。

一瞬の沈黙。そして、おばさんが泣きながらお祖母さんに駆け寄り、首にしがみつく。みんなその周りに寄ってきて、こころから「よかったね」と言う。あとはまた、幸せな気分と和やかさ一色になる。

クリスマス・ディナーはもう完璧に楽しくて、みんな最高にご機嫌で、お互いに楽しくやってもらおうという気になっている。昔のクリスマスの想い出や、お話、歌。七面鳥にワイン、そしてもちろん、大きなクリスマスプディング。

誰もがみんな気分良く楽しく過ごし、誰もが誰もを思いやり、そして、その気持ちが次の1年間ずっと続きますように。




午後のディナーがお開きになり、グレートはうきうきした気持ちで夜の歩道を歩いた。

――子供のころ以来だな。うむ、まさに古き良き英国のクリスマスだ。

テムズ川に映る街の灯を眺めながらエンバンクメントを歩き、サザク側へとブラックフライアーズブリッジを渡る。夜空にそびえる再開発ビル群を背に、ごみごみした街並みを抜けて、やがて彼は静かな公園に着いた。

前の夜、小劇場に立ち寄ったグレートはここで若い女を見かけ、心配になって声をかけた。そして、いろいろと話をするうちに、頼み事をされたのだ。駆け落ちしたために勘当された、だが肉親と会えないのはつらくて耐えられない。だから、何とか許してもらえるようにして欲しい、と。

ちょっと面白そうだったし、それに何しろ人助けだ。彼は軽い気持ちで引き受けた。マーガレットというその女に変身して――そして、それは大成功だった。

「ブリテンさん?」 女の声がした。彼女は、前の晩と同じ、スカートが長く広がった舞台衣装のようなドレスを着ていた。グレートはそれを「見本」にして貸衣装を選んだ。しかも、まだマーガレットの顔をしたままだ。ドレス姿のままオヤジ顔に戻るわけにはいかない。

「まあ!」 女は驚き、感心した。

「うまくいきましたよ、マーガレットさん。」 グレートは自分のことのように嬉しかった。

「ほんとうに、ありがとうございます。」 彼女は涙ぐんだ。

「いやいや、私も楽しかった。ひさしぶりに、素晴らしいクリスマスディナーでしたよ。こちらこそ、感謝いたします。――あ、いや、お礼には及びません。では、よいお年を。」


翌朝、グレートは、あの家をもう一度見て帰ろうと思った。ところが、行ってみると、その場所には商業ビルが建っていた。何度もメモを見て、通り名と番地を確かめた。だが。

――なんだ? 

――あの人たちは、いったいどこへ・・・。あの人たち・・・あの・・・。

「ああっ!」

グレートは思い出した。老夫妻も子供たちも、パーティーの客たちも、みんなヴィクトリア時代風のファッションだった。彼自身が芝居していたからか、雰囲気に呑まれたのか、昨夜は何とも思わなかったが。そういえば、マーガレットのドレスも。

そして、あの部屋にあったランプは、レプリカでなくて『本物』だったのではないか。しかも、確かに、帰る客たちは「『馬車』を呼ぼう」と言っていた。

――じゃあ、あれは19世紀の・・・。

別の『時間』に、完全に取り込まれていたのか。だがとにかく、夢ではなかった。傑作なジョークに吹き出してワインをこぼしてしまい、ホテルでドレスのシミを取るのに苦労したのだから。

ほとんど走っていないタクシーをやっとつかまえ、彼はサザクの公園に向かった。

こぢんまりとした公園は、ちゃんとそこに存在した。その片隅には、プレートが据え付けてあった。それによると、この公園はかつては墓地だった。なるほど、古びた墓石が低い石塀に並べて立てかけてある。

その中に、あの女の名前を刻んだものがあった。1800年代中頃の生年と没年、その差は20年と少ししかない。

――そうだったのか。たぶん、許してもらえないまま・・・。

グレートが人の魂のために祈るのは、ほんとうに久しぶりのことだった。

冬枯れの老木が彼の頭上に枝を広げ、冷たい空に宿り木の緑が揺れていた。

元話: Charles Dickens, 'A Christmas Dinner' [Sketches by Boz] (19世紀イギリス)

 

宿り木: クリスマスの宿り木飾りの下では女の子にキスしてよい、というイギリス独特の風習がある。

クリスマス・ディナー: イギリスでは、伝統的にクリスマスの日のお昼。

エンバンクメント: Victoria Embankment。ロンドンを流れるテムズ川北岸の堤防遊歩道。19世紀に作られた。

サザク: Southwark。ロンドンの区のひとつ。テムズ川南側。テムズ川南岸には老朽化した倉庫などが建ち並んで雑然とした雰囲気もあったが、再開発が進んでいる。

なお、さらに昔(16世紀から17世紀にかけて)、セントポール寺院の対岸あたりには、Shakespeare が活躍したグローブ座をはじめ劇場が数軒あり、演劇関係者が多く住まいした。現在、当時の姿を再現すべく建築されたグローブ座を見ることができる。

ヴィクトリア(朝)時代: Victoria 女王の時代(1837-1901)。


元闇編集人: 『名作』って、だけどこれ読んだことある人、いる?

制作人的隠居人: い〜じゃん、とにかく文豪 Dickens なんだから。

 

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