レポート 221200
レポート課題: クリスマスの過ごし方を提示せよ
標題: クリスマス・イブ

 


会社の昼休み。派遣社員なジョーがデスクでサンドイッチをかじっていると、係長が近づいてきた。

[ここんとこ注意されるようなミスはやってないんだからな。] ジョーはそう思い、態勢を整えた。

「島村君、今日は残ってね。」
「今日は残業なしだって、課長に聞いてますけど。」 それに今日はイブだから、とは、しかしさすがに言えなかった。

「残業じゃないの。うちの課で、老人施設のイベントにボランティアで行くことになってるのよ。今朝聞いたときは、特に予定ないって、そう言ってたわね?」

どうやら、この課の<有志>が伝統的にやってきた行事らしい。要するに、<有志>とはこの場合、イブに何も予定のない者のことで、半ば以上強制的なのだった。

[そーゆーのはボランティアっていわないんじゃ・・・。] しかし、予定があるくせに「ない」と言ったヤツが悪い。しかもこの係長が相手では、どうしようもない。

仕方がないので、エレベーターホールに出て、フランソワーズの携帯にメールを入れた。次に、研究所に来ているはずのジェットに、電話でアルバイトの代理を頼んだ。ジェットは快く、というよりも面白がって、引き受けてくれた。それから、アルバイト先に連絡。

やがて終業時刻、荷物運び奴隷となったジョーは、お菓子やら何やら入ったダンボールを担いでは施設課の1BOXに積み込んだ。お次は運転手に早変わり、一行とダンボール箱と彼のため息とを乗せたワゴン車は郊外の高齢者福祉施設を目指すのであった。

一方、ジェット。クリスマスのイルミネーションもまばゆい繁華街、あるケーキ店に身代わりバイトとして参上した。

店頭に立つと、ジェットは次から次へと通行人女性をキャッチしてはケーキを売りさばく。なにしろカッコいいアメリカ人である。しかも、日本語を交えての英語で愛嬌を振りまくのだ。あっちの老舗こっちのチェーン店で買おうと思っていた彼女たちがついフラフラと引き寄せられるのも無理はない。

[ヘンだよな、日本人って。英語か日本語どっちかだけだと逃げちまう・・・。しっかし、それにしてもジョーのヤツが何故こんなジョブを? あいつにセールスなんてできるのかな。] と、ジェットは思った。去年ジョーは黙って立っているだけで驚異的に売ったということを、彼が知っているはずはなかった。

やがて9時近くになって、解放されたジョーがケーキ店にやってきた。とっくにケーキを売り尽くしたジェットは、暇つぶしに店内の喫茶コーナーでウェイターをやっているところだった。

「やあ、ジョー、楽しいジョブだったぜ。ほら、これ。」 ジェットはケーキの箱を渡しながら、何か一言、小声で言った。

「ありがとう、ジェット。助かったよ。」 フランソワーズのところに持っていくために、ビュッシェ・ド・ノエルを1コ、確保しておいてもらったのだった。

「じゃーな、ジョー。フランソワーズによろしく。」 ジェットはバイト料を手に、夜の街に消え去った。

ケーキの箱を抱え、やっとフランソワーズのマンションにたどり着いたジョー。

「遅くなって、ごめん。」 交信可能エリアに入ってから通信装置で何度もあやまったのに、またあやまっている。

「いいのよ、大変だったのね。」 フランソワーズも、やっぱり同じことを言ってしまう。

「夕食はすんでるよね。 これ、食べよう。」
「ええ。」

ダイニングテーブルに置いた箱からケーキを取り出しながら、フランソワーズはちょっと驚いた顔をする。
「ジョー、このケーキは?」
「ジェットがさあ、代わりにバイトやってくれて、売り切れないようにとっておいてくれたんだ。別に置いてあった特製のだって。」
「そうなの。ジェットも大変だったのね。」

戸棚から皿とケーキ用ナイフとフォークを出してきたジョーに、フランソワーズはにっこり微笑んで言った。
「とてもきれいねえ。食べずにながめていましょう。」 そして、冷蔵庫から赤ワインとグラスを出した。

ジョーは、不思議そうな顔をしながらも、「じゃあこれ食べる?」と、ビスケット2枚入り小袋をポケットから取り出した。ボランティアのイベントで配ったおやつである。1枚ずつ皿に置き、グラスにワインを注いだ。

外のクリームは本物だけど中は食べられない、ディスプレイ用のケーキ。

くすっ、とフランソワーズが笑って、ジョーが見ているのは、その彼女の笑顔。
壁には、やどり木のリース。
二人の周りで、イブの夜が少しずつ更けていく。

Merry Christmas & Happy New Year !

 

編集人: 姉ちゃん、今年のイブは日曜日だよ。

制作人: いーんだよ、来年もこのまま置いとくから。

編集人: それにしても、ずいぶんあせって書いただろう。

制作人: (ほっかむり)

編集人: やどり木のクリスマス飾りの下では女のコにキスしていいってやつだね。イギリスだけじゃなくてフランスでもそうなの?

      ――― あ、逃げるなコラっ!

 

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