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アイルランドのケルト神話より




クーフラン: [Cuchulain] アルスター国[Ulster]の若き美貌の英雄。

ルーグ: クーフランの父、光の神。クーフランの苦難の旅を助け、戦いに疲れた彼を癒す。
スカーハハ: 『影の国』の島に住む、魔術を使う女戦士。クーフランの師。
メイヴ: コナハト国の女王。『クーリーの雄牛』を奪うため、アルスター国に攻め込む。
モリガン: 戦の女神。クーフランにすげなくされたので腹を立てて妨害するが、傷を癒してもらったので身方になったともいわれる。




クーフランの父は光の神ルーグ、母はアルスター国王クルフーアの妹デフティール。幼少の頃より怪力を発揮した。元服後には『影の国』(魔界)の女戦士スカーハハのもとで修行し、魔槍ガエ・ボルガを授けられる。

無敵の戦士となったクーフランは、アルスターに攻め込んだコナハト軍をたった一人でくい止める。しかし、ついに戦いが終わったそのあとで、クーフランは彼に恨みを持つ敵方の人間に、武術ではなく魔術と計略によって殺される。

☆ 

光の神ルーグの子供は、ルーグの言葉に従いセタンタと名付けられ、養い親のもとで育てられた。7才になると、貴族の子弟とともに、戦士としての訓練を受けるべく宮廷で暮らし始める。

その頃、セタンタは自分の身を守るために、鍛冶屋クランの番犬を殺してしまった。襲ってきた犬の口に球技用のボールを打ち込み、身体を貫通させて、さらに足をつかんで石の柱に叩きつけたのである。その償いに、代わりの犬が見つかるまで自分が番犬の代わりにその家を守ろうと、セタンタは申し出た。それで、彼は『クーフラン』(クランの猛犬)の名で呼ばれるようになった。

それから1年後、クーフランは、「今日元服する若者は大きな武功をあげて不滅の名声を残すが、短命に終わる」という予言を立ち聞きして自分がそうなりたいと思い、元服をさせてほしいと王に願い出る。普通の武器や戦車では、彼にとっては弱くて役に立たない。それで、王の武器と戦車を与えられた。

立派な戦士に成長したクーフランは若く、強く、美しかったので、アルスターじゅうの女たちが、娘も人妻も、彼にあこがれた。やがてクーフランは理想的な女性エーヴェルに出会い、求婚する。彼女も心を決めたが、修行を積んでから再び来るように言う。

ところが、エーヴェルの父親は、クーフランの求婚をよからぬものと思った。そこで彼は、『影の国』の偉大な女戦士スカーハハのもとでクーフランを修行をさせるよう、王クルフーアに勧める。その国に行くのは危険なので、途中で命を落とすだろうと考えたのである。

しかしクーフランは困難を乗り越えて『影の国』にたどり着く。1年の間に、スカーハハは戦いの技と魔術を全て彼に伝授し、魔槍ガエ・ボルガを与えた。

クーフランが『影の国』にいたときのこと。スカーハハと女戦士オイフェとの間に戦いが起こった。彼はオイフェと闘って勝ち、命乞いする彼女に3つの条件を呑ませた。スカーハハとの永久和平、人質、そして、自分の子を産むことであった。

アルスターに帰ったクーフランは、結婚を阻止しようとするエーヴェルの父親をうち破り、めでたく彼女と結婚する。

オイフェが産んだクーフランの子供は、7才になると船に乗ってアルスターにやってきた。王は、クーフランに命じ、戦士を次々とうち負かすこの正体不明の若者と闘わせる。彼は自分の子とは知らずにすさまじい戦いを繰り広げるが、最後に自分の子と判っても、名誉と忠誠のために、殺してしまう。

ところで、コナハト国の女王メイヴは、夫への競争心がこうじて、アルスターのクーリーにいた素晴らしい雄牛を手に入れようとする。しかし持ち主が手放さないので、武力に訴える。(『クーリーの牛争い』) 一方、アルスターの男たちは女神マハの呪いによって無力になっており、戦うことができなかった。

呪いの力を免れていたクーフランは、一人でコナハト軍の侵攻を食い止める。彼は投石器を使ってねらい撃ちにし、1晩ごとに百人の男を殺していった。その攻撃がこの17才の美少年のしわざであることを知った敵は驚く。

百人ずつ殺されるよりはと、コナハト側は毎日1人ずつとの一騎打ちを申し出た。クーフランは承知して、次々とコナハトの勇者を倒していく。それによって敵の進軍を遅らせようとしたのである。しかし、その間にクーリーの雄牛は敵に連れ去られてしまう。

一騎打ちの続いていたある夜、クーフランのもとに戦の女神モリガンが王女の姿をして現れ、求愛する。彼がすげなく断ると、モリガンは翌日の一騎打ちの邪魔をすると予告して去る。翌日、クーフランはモリガンに戦いの妨害をされて苦戦するが、最後には魔槍ガエ・ボルガを用いて勝利する。

次第に戦士の数が減っていくコナハト軍には、『影の国』でクーフランとともに修行した親友フェルディアがいた。彼は一騎打ちの命令を拒んでいたが、ついに闘わざるを得なくなる。クーフランも友と闘いたくはなかったが、4日間の死闘の末に、自らも重傷を負いつつフェルディアを倒す。

やがてアルスターの男たちは女神マハの呪いから回復し、両軍勢の最後の決戦となった。ここでクーフランは鬼神の働きをし、敵の女王メイヴをとらえるが、「女は殺さない」と、命を助ける。

ついに戦いが終わり、両国間に和平が成立した。しかし、気位の高いメイヴはクーフランに復讐しようとする。メイヴは、彼に恨みを持つ者たちに命じて魔術を身につけさせ、彼の命を狙わせる。彼らの術にかかり、幻の戦に混乱させられたクーフランは、敵に誘い出され、待ち伏せされる。相手の槍はクーフランの身体を貫いた。

自分の命が終わることを悟ったクーフランは、立ったまま死にたいと思い、野原に立っていた石柱に、自分のベルトで身体を縛りつけた。遠巻きにしていた敵の一人が、彼が息絶えたのを見て近づき、首を切る。その時、クーフランの持っていた剣が手から落ちて、相手の右腕を切り落とした。クーフランの右腕はその仕返しに切り落とされた。

クーフランの仇討ちは、アルスターの戦士『勝利のコナル』が果たした。




『牛争い』の戦いが始まったとき、クーフランは16-17才であったとされる。少なくともその7年前に子を孕ませられたかどうかは、考えない。

戦さは7年にわたったとも、クーフランが闘ったのは3ヶ月ほどで、決戦の後に7年の平和が続いたともいわれる。どちらにしても、戦いが始まって7年後に、クーフランは死んだことになる。確かに『短命。』 

しかし、彼自身が殺した敵、コナハト軍と勇敢に戦って全滅したアルスターの少年たち、彼らの年齢を考え、また戦いが日常という時代であったことを思い出すと、どうだろう。なんてことも、考えない。

ようするに、クーフランは何年経っても 17 (16)才ってこと。神話の世界に、時間の流れは「あるけど、ない」。



クーフランの得意技の1つは、大跳躍。城の防御壁も飛び越えてしまう。それから怪力。おまけに俊足。子供の頃、ボールをスティックで打ち、その方向にスティックも投げ、それらが地面に落ちる前に受け止めたという。

女難の相もあり。コナハト軍がアルスターに迫っていることを知りながら、クーフランはある女性と一夜を過ごす約束をしており、その約束を果たしているうちに、敵の侵入を許してしまう。モリガンの誘惑を退けたら、今度は痛い目に遭う。敵の女王メイヴの命を助けたのは自分の命取りになってしまう。

そして、永遠の美少年。これはもう、ゼッタイに、どこぞの美的青少年のような顔が似合う、と思いますけど。

でも、戦意が高まると身体に歪みを生じ、たとえば片目は巨大に、片目は針のように、口は耳まで裂けて、脳天から光を発する――というのは、ゼロゼロ変身オヤジ向きかも。

イラストのコスチュームは想像の産物。 『ハチマキ』は、現代的解釈によるクーフランの銅像(ダブリンの郵便局本局)の写真をヒントにしたもの。 『トルク(首飾り)』と『金髪』は神話の通りです。(茶髪ではない。) そういえば、珍しいことに色つきです。

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おまけ

ケルト民族:
いくつもの部族が共通の文化によって結びついた集団で、1つの人種的特徴があるわけではない。BC5〜BC1世紀中頃には広くヨーロッパに勢力を広げた。その後は衰退し、ブリテン島の周辺部やアイルランドなどヨーロッパの西端に残るだけとなった。

現在「ケルト」という言葉から思い浮かぶのは、独特の装飾模様ではないだろうか。渦巻きや組み紐文様がつながり、しばしばそれに人間や動物のモチーフを組み合わせたりするデザインは、おなじみのもの。

ケルトの戦士:
アイルランドの神話だと、チュニックにマントというコスチュームだったり、鎧を身につけたりするが、ギリシアやローマの著述家たちは、ケルトの戦士は素っ裸に武器を持って戦うと書いているそうだ。トルクと呼ばれる首鎖(首飾り)だけを身につけ、髪は石灰を使ってゴワゴワに逆立てていたという。

また、ケルトは人頭崇拝の風習を持ち、戦利品として「首狩り」をすることでも知られた。クーフランも、切り取った敵の首を誇らしげに戦車に並べて、凱旋する。

名前のカタカナ表記:
翻訳によって、様々。クーフラン、ク・ホリン、ク・フーリン、クーフリンなど。他の固有名詞も同じく。ケルト神話が日本ではまだお馴染みでないので定番の名前がないのだろう。それに、1つの綴りに幾通りもの発音が考えられるうえに、もとの綴りも様々だったりするそうだ。

アルスター (Ulster):
現在も地方名として生きている。アルスターはアイルランドの島の北部、現在の『北アイルランド』のあたり。コナハト (Connacht) は、その南西。


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