Monthly Special * April 2007
 Thomas Moore

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AS SLOW OUR SHIP

As slow our ship her foamy track
  Against the wind was cleaving,
Her trembling pennant still look'd back
  To that dear isle 'twas leaving.
So loth we part from all we love,
  From all the links that bind us;
So turn our hearts, as on we rove,
  To those we've left behind us!

When, round the bowl, of vanish'd years
  We talk with joyous seeming--
With smiles that might as well be tears,
  So faint, so sad their beaming;
While memory bring us back again
  Each early tie that twined us,
Oh, sweet's the cup that circles then
  To those we've left behind us!

And when, in other climes, we meet
  Some isle or vale enchanting,
Where all looks flowery, wild, and sweet,
  And nought but love is wanting;
We think how great had been our bliss
  If Heaven had but assign'd us
To live and die in scenes like this,
  With some we've left behind us!

As travellers oft look back at eve
  When eastward darkly going,
To gaze upon that light they leave
  Still faint behind them glowing,--
So, when the close of pleasure's day
  To gloom hath near consign'd us,
We turn to catch one fading ray
  Of joy that's left behind us.




*****



ゆっくりと船は



ゆっくりと 船は 泡立つ海路を
  向かい風に切り開こうとするのに、
なびく三角旗は まだなお振り返って見ていた
  離れつつあるあの愛しい島を。
そんなふうに 人は心を残しつつ愛するものと別れ、
  結ばれた絆を絶つ。
そんなふうに 人の心は振り返る、なおも彷徨い行くとき、
  あとに残してきたものたちを。

宴の席、消え去った日々を
  愉しげな装いで語らう――
涙にも等しい笑みで、
  そんなにも力なく、そんなにも悲しい笑みで。
そんなとき 想い出は人を連れ帰る
  それぞれの昔結んだ縁へと、
ああ、そこで廻る杯の甘美なこと
  残してきたものにささげて!

また他国にあって出会う
  魅力あふれる島や谷間、
花咲き乱れ香しく、
  あとはただ愛しい人がいれば、というとき。
人は思う、どんなに幸せなことか
  もし天が定め給うたなら、
この景色の中で生きそして死ぬべし
  残してきたものと共に、と。

旅人は夕暮れに振り返る
  暗闇を東へと向かうとき、
残してきたその光を見つめる
  まだなお背後で微かに輝くのを――
そんなふうに 楽しい一日の終わりが
  薄闇へと人を委ねるときには
人は 一目見ようと振り返る
  あとに残してきた喜びの 消えゆく一条の光を。




*****



Thomas Moore (1779-1852)


Dublin 生まれ、Dublin 大学に入学、さらに Middle Temple で法学を学ぶ。1803年には Bermuda の海事裁判所記録係となるが、代理者にまかせ自らはイギリスに戻っている。

大学入学以前から詩集を発表し、1817年にはヨーロッパでも詩人として人気を得るほどだったが、音楽家でもあった。また Byron とは親しい友人であり、Moore はその伝記を書いてもいる。


人生の様々な節目で、また人生の終わりに、人は必ず振り返る。なじんだ土地を離れ、人と離れ、新たな環境で新たな生活を始めなくてはならないときが、確かにある。だから、去りがたい思いで足を踏み出すのだけれど。

「置いてきちゃったんだ」と感傷にふけるだけでなく、離れた後も繋がりを保つべく試してみたらどうだろう。もしそれが本当に離れがたいものであるなら。

そう考えると、ここに出てくる人々は「つらい別れを悲しむ自分」に陶酔しているようにも見える。もちろん、それは今現在の読者の感覚。メールも電話もなかった時代には、物理的に離れてしまったら永遠の別離ともなったのだ。

冒頭の船出のシーンについて:
帆船が追い風で進むときは、マストにつけたペナントは風下側つまり船の前の方になびく。船出した港を向いてペナントがはためくなら、その船は風に向かって進んでいることになる。"Against the wind"とあるのは、そのことに念を押しているようだ。

向かい風の場合、船は風に対してジグザグに進路を取り、少しずつ前進する。向かい風で出港することがあるかどうかは疑問だが、ここでは「人生」と重ね合わせているのだろう。



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