Monthly Special * March 2004
 Emily Dickinson

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THERE IS NO FRIGATE LIKE A BOOK

There is no frigate like a book
To take us lands away,
Nor any coursers like a page
Of prancing poetry.
This traverse may the poorest take,
Without oppress of toll;
How frugal is the chariot
That bears the human soul!




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本より速いふねは ない
とおい国まで 運んでくれる、
どんな馬だって 本には かなわない
とびはねる詩が 書いてあるもの。
どんなに貧しくたってできる この旅は、
運賃なんて 心配ない。
ほんとに お金がかからない
ひとの心を のせる馬車は!




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Emily Dickinson (1830-86)

アメリカ、マサチューセッツ州のアマーストで生まれる。ニューイングランドの伝統的な清教徒的信仰を受け継ぐ家であった。父親は法律家。

外での交際をせず、ほぼ一生涯、自宅に引きこもって生活したといわれる。千数百の詩を書いたが、生前に発表はほとんどしていない。ごく一部を除いて、詩を書いていることを他人に知らせることもなかった。

詩集は彼女の死後になって初めて出版され、19世紀アメリカ詩に大きな影響を与えることとなった。



本に書かれている作品の世界に入れば、どんな時代へもどんな場所へも、一瞬で行くことができる。想像力のスピードにかなう乗り物はない。しかも、ここで比較されている乗り物には、戦に関係するイメージが含まれる。

frigate: フリゲート艦。当時の帆走快速軍艦。
courser: 駿馬、軍馬。
chariot: 古代の戦闘用2輪馬車

これらを用いた現実の戦争よりも、想像力のほうが、はるかに広い領域を、早く、経済的に(しかも平和に)制覇することができる。また一方で、戦いのイメージは、想像力が未知の世界に踏み込んでいくときの気合いを感じさせもする。

こうして、書物そのものというよりも、ディキンソンはそれを生み出しかつ利用する人間の精神活動のすばらしさと楽しさを讃えているように思われる。


使う言葉で印象が変わります。ちょっと遊んでみました。

書物は最速の艦
遙か遠国へと我らを運ぶ、
いかなる駿馬も 詩の頁ほどに
跳ね踊ることなし。
極貧者にも叶う旅
料金負担は一切無用。
人の精神を乗せる馬車の
いかに倹約的なことか。



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