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ジェラルド伯の眠り


パトリック・ケネディによる



昔アイルランドのフィッツジェラルド一族にひとりの英雄がいた。その名をジェラルドといったが、アイルランドの人々は常に家柄をこよなく愛していたので、この英雄をジェラルド伯と呼んだ。

ジェラルド伯はマラマーストに壮大な城、言うなれば土砦を構えていた。そうして、イングランドの為政者がこの国に悪しきを為そうとするときは、この人こそがそれに対して立ち上がる人物であった。戦の偉大な頭にしてあらゆる武器の使い手であると同時に魔法にも深く通じており、好きなものに姿を変えることができた。

奥方はこの力を知っており、その秘密を明かして欲しいと度々せがんだが、ジェラルド伯は決して聞き入れようとしなかった。


奥方はとりわけ何か変わったものに変身した夫を見てみたいと思ったのだが、いつもいろいろと誤魔化され、はぐらかされていた。しかし、辛抱強くなければ女とはいえないものだ。

そういうわけで、ついにジェラルド伯は奥方に言って聞かせることになった。もし私が別の姿をしている間にお前が少しでも恐れるようなことがあれば、人が何代もあの世に行くまで私は元に戻れないのだよ。

「まあ! そう簡単に怖がるようではジェラルド伯の妻はつとまりませんわ。ただ私のちょっとした望みをかなえてくださいまし、そうすれば、私がどんなにしっかりした女かおわかりになるでしょう。」

そこである美しい夏の夕べ、りっぱな居間でくつろいでいるときに、ジェラルド伯は奥方から顔を背けて何かしらつぶやいた。すると瞬く間にその姿はすっかりきれいに見えなくなり、可愛らしいヒワが部屋を飛び回っているのだった。


奥方は自分でそう思っていた通り肝がすわっていたから、少し驚きはしたものの、申し分なく落ち着いていた。とりわけ、小鳥になった夫が肩に止まって羽ばたいたり、かわいい嘴で唇にふれたり、このうえなく心地よい声で鳴いたりした時など。

ヒワは部屋じゅうをぐるぐる飛び回り、奥方と隠れんぼをするやら、庭に飛び出てはまた戻り、眠るかのように奥方の膝にうずくまるやら。そうしてまた飛び立つのだった。


さて、このようなことで双方が満足したころ、小鳥はもう一度外へと飛び出した。そうして、確かにすぐさま戻ってはきたのだ。ところが小鳥が奥方の胸に飛び入んだ瞬間、獰猛なタカが後を追ってきた。

奥方はすさまじい悲鳴を上げた。だがその必要はなかったのだ。タカは矢のように飛んできてテーブルに激しくぶつかったので、命が躰から飛び出してしまったのだから。

奥方は痙攣するタカから目を上げて、つい今までヒワのいたところを見た。しかし、ヒワもジェラルド伯も、再び目にすることはなかった。




七年に一度、ジェラルド伯は駿馬にまたがり、キルデア州はカラッハの野を回る。その馬に打った銀の蹄鉄は、ジェラルド伯が姿を消した時には厚みが半インチあった。それがすり減って猫の耳ほどになった時、ジェラルド伯は生きた人間の世界に戻り、イングランド人と大きな戦をし、それから40年のあいだアイルランドの王として君臨するという。


ジェラルド伯と配下の騎士たちはマラマースト城の地下、奥深く伸びた洞窟で眠っている。洞窟の中ほどには、長いテーブルが据えてある。ジェラルド伯がその上座に着き、両側には騎士が鎧兜に身を固めてずらりと居並び、テーブルに頭をもたせかけている。馬は鞍と手綱をととのえ、両側の枠におさまって、それぞれ主人の後ろに立っている。

そうして、時が来れば、粉屋の息子が両手に6本の指を持って生まれ、トランペットを吹き鳴らす。すると駿馬はいななき足を踏みならし、目覚めた騎士たちは馬にまたがって、戦へと赴くのだ。


七年に一度にあたる夜には、ジェラルド伯がカラッハの野を回っているあいだ、通りがかりの者が洞窟の入り口を目にすることもあるだろう。百年ほど前のこと、ある馬商人が酔って帰りが遅くなり、洞窟の明るいのを見て、入ってみた。明るく照らされ静まりかえった中には、鎧甲に身を包んだ騎士たち。馬商人はその姿を見て恐くなり、酔いが醒めた。

手が震え、持っていた馬具が石床に落ちた。くつわの音が長い洞窟にこだまして、いちばん近くの騎士が少し頭を持ち上げた。そうして、低いしわがれ声で言った。「もはや、時か?」

馬商人は機転をきかせ、「いやまだ、しかし間もなく」と答えた。すると重い兜はゆっくりとテーブルに落ちた。馬商人はあらん限りの力で外へと急いだ。

ほかに同じ目にあった人の話を、私は聞いたことがない。


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外は暗く寒い夜。明るく暖かい炉端で、一家で楽しむゴーストストーリーや妖精物語。イギリスの伝統的な家族団欒シーンです。

子供たちも、こわい話だって大丈夫。お話の中の恐いものが本当に潜んでいそうな外の闇と比べると、いっそう家の中が安心できる場所に感じられます。

今回は、W. B. Yeats が集めたアイルランドの民話から、『夜』をテーマに2つ取り上げてみました。