Monthly Special * May 2003
 William Allingham

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A MEMORY


Four ducks on a pond,

A grass bank beyond,

A blue sky of spring,

White clouds on the wing
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What a little thing

To remember for years――

To remember with tears!









記 憶


池に あひる 四羽

むこうに 草の土手

春の青空

翔ける 白雲。

なんて ささいなこと

何年も 忘れずいるには――

涙で 想い出すには。









William Allingham (1824-89)

アイルランド生まれ。雑誌編集者としても活躍したが、詩人としてはマイナーな存在に終わった。



この詩に使われている単語の数は31で、和歌(31文字)を意識したのではないかと考えられている。前半4行と後半3行が、それぞれ上の句と下の句のようでもある。また、文の要素としての動詞(述語動詞)がないことにも注目したい。

[pond / beyond], [spring / wing / thing], [years / tears] と、前半後半にまたがって韻を踏んでいることにより、一見関係のなさそうな事を言っている前半と後半とが、さりげなく一体化している。
青字:前半、赤字:後半)



前半は、今現在目に見えている光景なのか、過去に見たものなのか。

後半の「ささいなこと」とは、前半に描かれたものに代表される環境そのもののことなのか、あるいは、前半に描かれた光景と共に想い出される過去の出来事なのか。それとも、起こったばかりの、あるいは起こりつつある出来事が今見ている景色と結びついて、これから先ずっと忘れられないという予感がするのか。

想い出すのは、悲しいことなのか、懐かしいことなのか。失った幸せなのか。

表現の単純さが想像を大きく広げさせ、また、読む人の背景によって様々な解釈があり得るだろう。この詩が和歌をモデルにしたものであるとすれば、ただ単語数を31とするだけではなく、アリンガムは和歌の持つ表現の可能性をも取り込んでいると言えるのではないだろうか。



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