Monthly Special * July 2003
 Emily Bronte

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THE OLD STOIC


Riches I hold in light esteem,
 And Love I laugh to scorn;
And lust of fame was but a dream,
 That vanished with the morn:

And if I pray, the only prayer
 That moves my lips for me
Is, 'Leave the heart that now I bear,
 And give me liberty!'

Yes, as my swift days near their goal,
 'Tis all that I implore;
In life and death a chainless soul,
 With courage to endure.



*



老哲学者


富など たいしたものと思わず。
 愛には あざけりの笑いを。
名声を求めても だだの夢、
 嘆きとともに 消え失せた。

祈るとすれば、
 自身のために 唇うごかす 祈りは
ただ、「今ある我が心を あるがままにさせ給え、
 我に自由を与え給え!」と。

そう、我が俊足の時間が 終点に近づく今、
 それが 全ての願い。
生あるときも死してのちも 鎖に縛られぬ魂を、
 堪え忍ぶ力をそなえて。



*



Emily Bronte (1818-48)
(「Bronte」の本来の綴りは「e」にウムラウトがついている)

詩人、小説家。小説 Wuthering Heights で有名だが、詩人としての評価も高い。姉シャーロット、妹アンとともに、『ブロンテ姉妹』として文学史に名を残した。

父親はアイルランド出身で、ヨークシャーの寒村ハワースで教区牧師を務めた。 女5人男1人の子供のうち、エミリーは四女にあたる。母親は1821年に死亡。長女は12才、次女は11才で病死した。

成長した三姉妹は学校教師や家庭教師の職に就く。やがて私塾を開く計画をたて、その準備としてシャーロットとエミリーはブリュッセルに留学。しかし、塾には生徒を一人も集めることができず、計画は挫折した。

父親の期待を一身に受けた兄は、どの職についても長続きせず、酒や麻薬で身を持ち崩して最後には結核で死亡。結核で健康の衰えていたエミリーはその葬式の時にカゼをひき、約3ヶ月後に死亡。妹アンも翌年死んでいる。



ブロンテ姉妹は少女時代から詩や空想物語を書いた。1846年には3人で詩集を出したが、ほとんど売れなかった。そのあとそれぞれが小説を発表。姉の2作目 Jane Eyre だけが当時の有名な評論家に賞賛され、版を重ねた。

詩集を出版する際、彼女たちは男性名のペンネームを使った。当時の風潮を考慮して、女性であることを隠そうとしたのである。小説にも同じペンネームが使われた。



タイトルの THE OLD STOIC とは、ストア学派の老哲学者のこと。30才で他界したエミリーは、実年齢でいえば、もちろん最後まで「老」とはならなかった。

しかし、彼女は「老哲学者に成り代わって」その心情を表現したのではなく、ここに述べられているのは彼女自身の自然な気持ちであって、それがいわゆるストア学派の老哲学者のようだということなのだろう。

『富』『愛』『名声』は、生前の彼女に縁遠いものだっただろう。それらを否定しているのは、強がりなのか、確信なのか。



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