Monthly Special * June 2002
 William Butler Yeats

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The White Birds


I would that we were, my beloved, white birds on the foam of the sea!
We tire of the flame of the meteor, before it can fade and flee;
And the flame of the blue star of twilight, hung low on the rim of the sky,
Has awaked in our hearts, my beloved, a sadness that may not die.

A weariness comes from those dreamers, dew-dabbled, the lily and rose;
Ah, dream not of them, my belobed, the flame of the meteor that goes,
Or the flame of the blue star that lingers hung low in the fall of the dew:
For I would we were changed to white birds on the wandering foam: I and you!

I am haunted by numberless islands, and many a Danaan shore,
Where Time would surely forget us, and Sorrow come near us no more;
Soon far from the rose and the lily and fret of the flames would we be,
Were we only white birds, my beloved, buoyed out on the foam of the sea!




白 い 鳥


恋人よ、僕たちが 海のあわに浮かぶ白い鳥だったらいいのに。
流星の輝きには 飽きた、 まだ 薄れて消えもしないうちに。
黄昏の青星の輝きは、 空の縁に低くかかって、
恋人よ、 僕たちの心に 消えることのない悲しさを呼び覚ました。


倦怠は 夢見るものたちからやって来る、 露をあびて、 百合と薔薇から。
恋人よ、 ああ 夢見ないで、 消えゆく流星の輝きも、
露の降る中 低くかかって残る 青星の輝きも。
僕は ただよう泡に浮かぶ白い鳥になれたらいいと 思っているのだから、 僕と君とが。


僕の心には いつもずっと 無数の島が 幾多のダナーンの浜が、
そこではきっと 『時』は僕たちを忘れるだろうし、 『悲しみ』はもう近づいてこないだろう。
薔薇と百合から 輝くものたちへの苛立ちから すぐに 遠く離れられるのだけれど、
恋人よ、 ただ 僕たちが 海のあわに浮かんだ白い鳥でさえあったら。

 



William Butler Yeats (1865 - 1939)

Yeats については April 2000 を参照のこと。

Danaan (ダナーン族、ダーナ神族)
Yeats によれば: Danaan とは『女神 Dana の種族』を意味し、Dana は古代アイルランドのあらゆる神々の母。Danaan は光・生・暖かさの力であり、彼らは夜・死・冷たさの力である Fomoroh (フォモール族)と闘った。しかし供物も栄誉も捧げられなくなり、彼らは人々の想像の世界で次第に縮小して、ついには妖精となった。

Danaan shore (ダナーンの浜)
ダナーン族の住む楽園、妖精の島。そこに行けば、人間も永遠の青春が得られるという。



この『白い鳥』は、ダナーン族の化身で、妖精の国に住むものとされる。ケルトの神話や伝説には、白い鳥に姿を変えられた人間もしばしば登場する。しかし、この詩にあるのは単なる<非現実への憧れ>ではないだろう。

Yeats はロマン主義的な詩人として出発、その後心霊学に興味を持ち、また、オカルティズムの結社『黄金の暁教団』に参入した。しかし、社会的現実に背を向けたわけではない。彼は自ら中心となって1899年にアイルランド国民文学座を設立、1904年にはアベイ座を手に入れて本拠地とし、その運営に力を尽くした。

そのように見るなら、『白い鳥』の住む妖精の国とはアイルランド文化そのものであり、『薔薇』はイングランド、『百合』はフランス(の文化)。『消えゆく流星の輝き』は世紀末の文芸、『低くかかって残る 青星の輝き』はヴィクトリア朝時代の文化のこと――と考えるのは、<常識的>すぎるだろうか。(この詩は1892年に書かれた。)



おだやかな海は泡立たない。荒れているか、磯に波が打ちつけるか。(洗剤などが流れ込んでいるのは論外。) 泡立つ海は美しいけれど、そこは波乱に富んだ場所でもある。Yeats の思い描く海がそうであるなら、『白い鳥』は、ただぼんやりと浮かんでいることはできないだろう。



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