Monthly Special * August 2002
 Samuel Taylor Coleridge

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from The Rime of the Ancient Mariner


Alone, alone, all, all alone,
Alone on a wide wide sea!
And never a saint took pity on
My soul in agony.

The many men, so beautiful!
And they all dead did lie:
And a thousand thousand slimy things
Lived on; and so did I.

I look'd upon the rotting sea,
And drew my eyes away;
I look'd upon the rotting deck,
And there the dead men lay.

I look'd to Heaven, and tried to pray;
But or ever a prayer had gusht,
A wicked whisper came, and made
My heart as dry as dust.

I closed my lids, and kept them close,
And the balls like pulses beat;
For the sky and the sea, and the sea and the sky
Lay like a load on my weary eye,
And the dead were at my feet.

The cold sweat melted from their limbs,
Nor rot nor reek did they:
The look with which they looked on me
Had never passed away.

An orphan's curse would drag to hell
A spirit from on high;
But oh! more horrible than that
Is the curse in a dead man's eye!
Seven days, seven nights, I saw that curse,
And yet I could not die.

The moving Moon went up the sky,
And no where did abide:
Softly she was going up,
And a star or two beside --

Her beams bemocked the sultry main,
Like April hoar-frost spread;
But where the ship's huge shadow lay,
The charmed water burnt alway
A still and awful red.

Beyond the shadow of the ship,
I watch'd the water-snakes:
They moved in tracks of shining white,
And when they rear'd, the elfish light
Fell off in hoary flakes.

Within the shadow of the ship
I watch'd their rich attire:
Blue, glossy green, and velvet black,
They coil'd and swam; and every track
Was a flash of golden fire.

O happy living things! no tongue
Their beauty might declare:
A spring of love gush'd from my heart,
And I bless'd them unaware!
Sure my kind saint took pity on me,
And I bless'd them unaware.

The selfsame moment I could pray;
And from my neck so free
The Albatross fell off, and sank
Like lead into the sea."

(Part IV, ll. 232-91)



***


老水夫より


ひとり、ひとり、ただ、ただひとり、
広い 広い海に ひとり。
聖人は一人として
苦しむわしの魂に 情けをかけ給わず。

あまたの者、いとも うるわしく
だが みな死んで よこたわり。
千の千倍もの 泥めいたものどもが
生きながらえ、同じくわしも。

腐りゆく海を見ては
目をそらす、
朽ちゆく甲板を見れば
死びとたちが よこたわる。

天を仰ぎ、祈ろうとすれど
祈りの言葉のわく前に
邪なささやきが起こり、それで
わしの心は ちりのように干涸らびた。

まぶたを閉じ、閉じておっても、
目玉は脈のように打った、
空と海、海と空とが
わしの疲れ果てた目に 積荷のようにのしかかり、
わしの足元には 死びとたちがおったのだから。

手足から 冷たい汗がにじみ出て、
腐りもせねば 臭いもせず。
わしを見るその目つきは
少しも消えてはおらなんだ。

みなしごの恨みは 高みにある魂を
地獄へと 引きずり落とそうが、
だが、ああ、それより恐ろしいのは
死びとの目に宿る呪いよ。
七日七夜、わしはその呪いを見ておった、
それでも 死ぬことはできなんだ。

めぐる月が空に昇り、
それは とどまることもなく。
月はそっと昇りゆき、
かたわらに 星がひとつ ふたつ――

月の光は 蒸して熱い海原を尻目に、
四月の白霜のごとく広がった、
だが 船の影が大きく落ちるところには、
呪われた海が ずっと燃えておった
静かな 恐ろしい 赤色<あかいろ>に。

船の影のむこうに、
わしは 海蛇の群れを見た。
海蛇は 輝く白い波跡<なみあと>となって動き、
身をもたげれば、妖しい光が
霜のかけらとなって こぼれ。

船の影の中に
わしは 海蛇のあでやかな装いを見た。
青、つややかな緑、それにビロードの黒、
輪になり 泳ぎ、波跡はどれもみな
金の焔のひらめきで。

幸いなる生き物よ! 言葉では
その美しさを 表せまい。
わしの心に 泉となって 愛が湧き出で、
知らぬ間に わしはそれらを讃えておった。
たしかに わしの優しき聖人が あわれみ給うて、
知らぬ間に わしはそれらを讃えておった。

そのまさに同じ時 わしは祈れるようになった、
すると この首から いともたやすく
信天翁は はなれ落ち、
海の中へと 鉛のごとく沈んでいった。」

(Part IV, ll. 232-91)

 

Samuel Taylor Coleridge (1772-1834)


デヴォン州に聖職者の息子として生まれる。Cambridge大学で学ぶ。学業半ばで騎兵連隊に入隊したものの、数ヶ月で除隊。その後、理想平等社会の建設をめざすが、そのために大学にはいられなくなり、最終的には計画も挫折する。

1795年に詩人 Wordsworth と出会い、二人は1798年に詩集 Lyrical Ballads を出版。 'The Rime of the Ancient Mariner' は、その初版の巻頭に収められた。

詩人としてのみならず批評家としてもすぐれた業績を残している。しかし、Coleridgeの晩年は幸福ではなかった。1804年にマルタ島へ転地療養に出たが、1806年に帰国した時にはアヘン中毒が悪化していた。

それ以来家族のもとへは帰らず友人宅を転々としたのち、1816年以後は医師 James Gillman 夫妻の家に留まり、彼らに世話を受けながら、執筆と講演活動とを続けた。



老水夫

罪、罰、贖い、救済の道筋が超自然的な事件の中で展開する幻想的物語詩。

老水夫は、婚礼の宴に向かう三人の若者のうち一人を強引に引き留め、自分の体験を語って聞かせる。

彼の乗った船は暴風に襲われ、南極近くまで流される。そこで氷に閉じこめられているところに、一羽のアホウドリが飛来する。水夫たちはこの鳥を喜びで迎えた。間もなく氷が割れ、南風が起こり、船は北に向けて脱出した。

しかし、幸運をもたらし彼らになついたこのアホウドリを、彼は弓で射殺してしまう。この残酷な行いゆえに、船には呪いがかかる。船は赤道付近で全く動かなくなり、仲間は彼一人を残して死に絶える。

彼はその首にアホウドリの死骸をかけられたまま呪いに責め苛まれるが、死ぬことすらできず、恐怖から逃れることができない。

だがある月夜、彼は海をゆくウミヘビの群を目にし、その美しさを心の中で讃える。すると呪いがとけはじめ、彼の首のアホウドリは海に沈み、船は天使たちに動かされて港に帰る。

それ以後、老水夫は放浪し、贖罪のために体験を語って、あらゆる被造物に対する愛を説かずにおれなくなった。



albatross
アホウドリ、信天翁。南半球に多い、巨大な海洋鳥。最大種のワタリアホウドリは翼を広げると330センチに達する。

ヨーロッパでは水死した水夫の魂と信じられ、この鳥を殺すと凶運を招くと考えられた。しかし実際には、地上では動きが鈍いため人間に捕まりやすく、羽毛を採取するために大量に殺された。

コールリッジのこの詩から、「albatross」という単語は「絶えず重く心にかかるもの」「何かをしようとする時の妨げ」といった意味を持つようになっている。「an albatross around one's neck」という言い回しもある。

ゴルフのスコアに使われる用語としても、おなじみである。


water-snake:
ウミヘビ、海蛇。魚類(ウナギの仲間)と爬虫類(ヘビ)とがある。後者は暖かい海域に分布し、毒を持つ。また、繁殖期には海面下に群れをなして列を作ったり、コイル状にからんだりする。長さは120センチほど。

ただし、さる研究者がここに登場する"water-snake"の正体をヒモムシ(紐形動物)と特定しているそうである。

しかし、この詩の幻想的な雰囲気は、たとえば龍といった空想上の(しかもかなり大きな)生き物を思わせる。

コールリッジの想像の世界では、ニシキヘビに似た海の動物が群れになって、白く煌めく水しぶきをまき散らして頭をもたげ、燐光のように鱗を輝かせ身をくねらせ、妖しい光を振りまいては水に沈んでいたのではないか。そんな空想画像は楽しいし、美しい。



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