MONTHLY SPECIAL * October 2001
 Oscar Wilde

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Poems in Prose

The Disciple


When Narcissus died the pool of his pleasure changed from a cup of sweet waters into a cup of salt tears, and the Oreads came weeping through the woodland that they might sing to the pool and give it comfort.

And when they saw that the pool had changed from a cup of sweet waters into a cup of salt tears, they loosened the green tresses of their hair and cried to the pool and said, 'We do not wonder that you should mourn in this manner for Narcissus, so beautiful was he.'

'But was Narcissus beautiful?' said the pool.

'Who should know that better than you?' answered the Oreads. 'Us did he ever pass by, but you he sought for, and would lie on your banks and look down at you, and in the mirror of your waters he would mirror his own beauty.'

And the pool answered, 'But I loved Narcissus because, as he lay on my banks and looked down at me, in the mirror of his eyes I saw ever my own beauty mirrored.' 



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散 文 詩

信 奉 者


ナルキッソスが死んで、彼の喜びであった泉は、その甘い水を塩辛い涙に変えました。山の精たちは泣きながら森を歩いてやって来ました。歌をうたって泉をなぐさめようと思ったのです。

山の精たちは、泉が甘い水を塩辛い涙に変えてしまったのを見ると、編んだ緑の髪をほどき、声をあげて呼びかけ、そして言いました。「そんなふうにナルキッソスの死を嘆くのも無理はないわ、あの人はとても美しかったんだもの。」

「あら、ナルキッソスは美しかったんですの?」 泉は言いました。

「それは、あなたが一番よく知っているはずよ。」 森の精たちは答えました。「私たちのそばは通り過ぎるだけで、あの人が求めていたのは、あなただったわ。よくあなたのほとりに横たわって、うつむいてあなたを見て、そしていつもあなたの水の鏡に、自分の美しさを映していたんだわ。」

すると泉は答えました。「あら、私、彼が私のほとりに横になって私を見下ろせばいつも私の美しさが彼の瞳の鏡に映ったので、それで彼を愛しておりましたのよ。」



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Oscar Wilde (1854-1900) [Oscar Fingal O'Flahertie Wills Wilde]


アイルランドのダブリンに生まれる。オックスフォード大学モードレンカレッジを卒業。詩・劇・小説の分野で、機知に富んだ作品を発表した。

1895年、まさに文壇の中心的存在となっていた彼は、同性愛行為の罪で2年間の重労働を含む懲役に服す。出所後は社会に受け入れられず、破産したうえ妻子にも去られ、単身ヨーロッパ大陸に渡り、1900年、パリで死亡。

"Disciple" は、Poems in Prose『散文詩』として1894年にまとめて発表された6編のうちの1つである。ナルキッソス伝説のパロディだが、そこにあるのはそれぞれの虚栄心であったという意地悪な『真理』が、いかにも 世紀末の反逆者 Wilde らしい。



――ナルキッソス伝説

おしゃべりなニンフのエコーは、夫ゼウスを探しに来たヘラの怒りをかい、誰かに話された言葉を繰り返すことしかできなくなった。

エコーは美少年ナルキッソスに恋をして近づくが、会話が成り立たない。ナルキッソスはエコーから逃げた。絶望のあまり痩せ細ったエコーは肉体を失い、声だけの存在になってしまった。これが『やまびこ』である。

ナルキッソスは他の乙女たちにも冷淡だった。ある乙女の願いを聞き届け、復讐の神は罰を与えた。彼は水に映る自分の姿に恋をする。手を伸ばせば、涙を落とせば、水面が揺れて『恋人』の姿は消える。情熱的な眼差しで自分を見つめてくれるのに、何も語りかけてはくれない。

実らぬ恋にナルキッソスは憔悴し、やがて死んでスイセンの花に姿を変えた。だからスイセンは水辺で自分の姿を水に映しているのである。


この話のスイセンは、白花で副花冠(中央のカップ型の部分)に紅色が入るクチベニスイセンだといわれる。

 

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