Monthly Special * January 2001
 Alfred Tennyson

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Crossing the Bar


Sunset and evening star,
   And one clear call for me!
And may there be no moaning of the bar,
   When I put out to sea,

But such a tide as moving seems asleep,
   Too full for sound and foam,
When that which drew from out the boundless deep
   Turns again home.

Twilight and evening bell,
   And after that the dark!
And may there be no sadness of farewell,
   When I embark;

For tho' from out our bourne of Time and Place
   The flood may bear me far,
I hope to see my Pilot face to face
   When I have crost the bar.


*

砂洲をわたるとき


落日と宵の星、
    私を呼ぶ 清らかな声!
願わくば 砂洲が軋
(きし)みを立てぬことを、
    私が海原へと旅立つときには、

願わくば 眠るかのように流れる、
    満ち満ちて 音もなく泡立ちもせぬ潮を、
無限の深みから出で来たものが
    生まれた処に 還り往くときには。

黄昏と夕べの鐘、
    それに続く闇!
願わくば 暇
(いとま)乞いの悲しみが聞こえぬことを、
    私が船出をするときには。

時間と空間を越えた彼方まで
    潮の流れが 私を運ぼうとも、
私を導く存在と 私は向き合うのだから
    砂洲をわたり終えたときには。


*

Alfred Tennyson (1809-92)


19世紀Victoria朝時代のイギリスを代表する詩人。Lincolnshire
(リンカンシャー)の寒村に牧師の四男として生まれ、Cambridge大学に学ぶ。1830年ごろから詩人として活動。

1850年、William Wordsworth の後を受けてPoet Laureate(桂冠詩人)に任じられ、1884年には男爵に叙せられた。死後は Westminster Abey に葬られている。まさに功成り名を遂げた人物である。

'Crossing the Bar' はTennyson の辞世の作と一般に考えられているが、 実際には1889年に書かれた。本人の遺言により、この詩が全集の先頭に収録されている。

"crossing the bar" 「砂洲をわたる」とは、生と死の境界を越えること。無限の海からこの世に現れた魂が再びそこに帰っていく様を、船出のイメージに重ねている。

"Pilot"(水先案内人)は、ここでは「私を導く存在」としたが、もちろん「神」を意味する。大海原の潮流のように深く静かな信仰に支えられた、「神と向き合う」自信に満ちた死を願う。

そのための揺るぎない人生を、Tennyson は確かに生きたのだろう。その生き方は、功利的・常識的・自己満足的なVictoria朝時代人の標本とみなされることがあるにしても。

Tennyson の作品を読んでみたい方には、ロマンチックに悲しい物語詩 Enoch Arden 『イーノック・アーデン』をお薦め致します。なるべく古い翻訳でどうぞ。

* Poet Laureate: イギリス王室の文官として終身任命される、詩人の称号。戴冠式などの王室行事やその他の公式行事に際して詩を作ることになっているが、義務ではない。

* Westminster Abbey: ウェストミンスター寺院内の、Poets' Cornerと呼ばれる一角に、有名な詩人・作家たちの墓所や記念碑がある。

* 背景のグラデーションは、画面の設定[True Color 32ビット]でなめらかに表示されます。

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