銀 の 星
クリスマスツリーの季節がめぐってきた。
夕闇、長い道のりを走り、坂道を上って、プラムの木に点滅する電飾が目に入る。それはタイマーで点灯するのだとわかっていても、待っている誰かがいるような、安堵の風景。
冷たい空気。ドアのロック音が1日を閉じる。静かな白い明滅が、シルバーメタリックの車体に映っている。荷物を提げ夕刊と郵便物を手にして、少しだけ、ため息をつく。
家の灯りをつけ、PCの電源を入れ、妹からのメールを読んだ。
「・・・あの銀の星だ。一体いくつになったらツリーのてっぺんに手が届くようになったのだろう? そして、その後は銀の星を飾る役目がまわってきたのだろうか?」
子供の頃、我が家のクリスマスツリーはとても立派に見えた。実際の高さは90センチ足らずだったはずだ。ビニールの葉を茂らせたモミの木。植木鉢を模した白い箱状の台座に立てると、少しぐらついた。
毎年クリスマス前には、オーナメントを買い足してもらうのだった。
古い商店街の、薄暗い花屋。前を通ると、植物の匂い、それを長く浸けておいた水の匂い。ザラザラしたコンクリートの床はひび割れ、薄く剥がれたところにいつも水が溜まっていた。
しかし、この季節がやってきて、輝くガラス玉や色とりどりのモール細工が並ぶと、染みだらけの壁もゆがんだブリキのバケツも、目に入らない。それはクリスマスの魔法だった。
――どれにしよう。まだあの箱に入っていないものを。――
真剣に考え、その結果選ぶのはいつも、最も安価で質素なものに近かった。緑色のコードに連なった豆電球は、もちろん欲しかったのだが、我が家とは関係のないものに見えた。
さて、飾り付けだ。おそらくツリーに最初からついていたのだろう、ひときわ大きな銀の星があった。ボール紙で立体的に作り銀紙を貼ったもので、細い針金でてっぺんの枝にかけるのだ。
銀の星を飾って、クリスマスツリーは完成する。だから、二人とも栄誉あるこの役を自分のものにしたかった。他は譲っても、これだけは。
妹は手が届かないのだから。そういう理由が通じたのは、いつまでだったろう。
やがて、ツリーはごく当たり前の大きさに見えるようになった。その頃には、色褪せたモール細工や色玉の合間に、5色の豆電球が静かに点滅し始めた。
そのクリスマスツリーも、灯りを消して飽きずにそれを眺めていたあの家も、今はない。この季節だけ魔法のかかる花屋も、いつのまにか別の店になっていた。
小さかったのは、妹だけではない。手が届かなかったのは、ツリーのてっぺんだけではない。
しかし、そうしたもどかしさが過去のものとなった現在、私には「これだけは自分が」と思えることがあるだろうか。「いつかは自分が」と願いをかけることがあるだろうか。そして、自分の欲しいものを真剣に考える幸せが、あるだろうか。
部屋の隅に、最後に見た年の、したがって最も『豪華』な、クリスマスツリーが現れたような気がした。
――今一度、銀の星をかかげよ――今ここに天使がやって来たとしたら、そんなふうに言うのだろう。
窓を開けた。
小さく澄んだ白い光が、ゆったりと点いては消え、クルマがそれをやわらかに映していた。
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